はじめに
前回、光の速度の測定法について惑星や地球の公転速度に基づいた方法をご紹介しました。今回は、地上での光の速度を求めた方法についてです。当時の技術や道具に制限があるなかで、どうやったら光の速度を正確に測定できるかを考えた人たちがいました。その一人がフィゾーです。フィゾーはパリで光の速度を求める実験を行ったことで有名です。のちにフーコーも回転鏡を使って光の速度を求めていますが、今回は、フィゾーの方法についてフォーカスします。
フィゾーの回転歯車法
アルマン・フィゾーによってはじめて地上で光の速度の測定が行われました。原理は光が回転する歯車の歯と歯の間を通過するときの回転数と遮断されるときの回転数から光の速度を求めるものです。フィゾーは光源とレンズ、半透過型反射ミラー、歯車を用いて測定装置を組み上げています(図1A)。歯車による光透過制御のアイデアは画期的で、図1Bに示すように、歯車の歯の間を透過した光が反射して歯車に届いたときに歯がその光をブロックすると、歯車の回転数が上がるにつれて観察窓からわずかに見える光が減弱した回転数の時に、反射光が歯にぶつかることから、光の速度を求めることができると考えました。
図1A フィゾーの光速度観測装置概略
図1B 歯車による光の透過・ブロックの関係
観測器の歯車と反射器の距離が8.63キロメートル、歯数が720本の歯車*を回転させ、観察窓から見える光が減少するのが1秒間に12.6回回転した時で、光速は以下の計算式で求めることができます(*論文に描かれた歯車の歯数は180本なので、その歯車の場合だと4倍増幅された回転数だったと思われます。)。
光速(km/sec)=4 x 720 x 12.6 x 8.63 =313,000
フィゾーはシュレーヌ(図2地図中黄色部分)にあった彼の父親の家からモンマルトルの丘の間、約9キロメートルを往復する光の観測によって光の速度を求めたとされています。観察器はシュレーヌ、反射器はモンマルトルにおいて、光の軸を合わせて観察窓から見える光の強弱を観察しました。推測でしかありませんが、離れたところにある両装置の方向や角度を微調整するために、双方が望遠鏡を除きながら必要な情報を送り合ったと考えられます。また、レンズ径が6センチメートルで距離が8.63キロメートルだと光の放射・反射角度が上下左右0.0000004°程度でもずれると光をとらえることができなくなるので、観測装置が設置してある場所の振動や風、空気の揺らぎなどによっては全く観測できない状態になることもあったと考えられ、その調整は相当大変だったと思われます。図1Bに観測窓の様子を示していますが、実際の観測窓に見える光はおそらくこのようなものではなく、減弱はみえるもののどこが最も減弱した光なのかを決めることも難しかったことが想像されます。それでも秒速31万キロメートルという数字を出したのはすごいことです。
図2 観測器と反射器の設置場所
おわりに
フィゾーが思いついた方法で実験を行う場合の条件としては、夜は明かりがほとんどなく、空気が澄んで揺らぎのない状態でのみ観測が可能だったと考えると、実験を行ったのが1849年で、ガス灯がともり産業革命の真っただ中にも関わらず測定が成功したのは奇跡的といえるかもしれません。1789年から1795年の間に起きたフランス革命を経て、ナポレオンが皇帝となると、フランスは軍事強国の一つとなっていきますが、それから1814年にロシアの支配下にはいると王政回帰することになります。その後、1848年には、ナポレオンの甥のルイ・ナポレオンが大統領となり、それからしばらくしてクーデターを起こしてナポレオン三世としてフランスに君臨するようになった時代であり、混沌としているように見える中で、フィゾーのような研究者が光の速度の観測に従事できる環境があり、科学技術に関する様々な研究が行われ成果を得ていたことは非常に興味深いことです。
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