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抗酸化能測定について

更新日:2023年5月16日

はじめに

地球は空気で包まれており、私たちはその中の酸素を使って生命を維持しています。いわゆる好気性雰囲気下で生きていくことができる生物です。バクテリアには好気性菌と嫌気性菌があり、酸素を活用する好気性菌や通性嫌気性菌は酸素存在下で増殖する一方、偏性嫌気性菌は酸素があると死滅してしまいます。酸素は生体内に取り込まれて代謝経路においてヒドロキシラジカルなどの活性酸素種(ROS:Reactive oxygen species)となり、様々な有機化合物を酸化し損傷を与えますが、大気中や酸素が溶け込んだ水環境で生存している生物は酸素を活用しつつROSから防御する仕組みを持っています。その仕組みについては、関与する遺伝子群の解析が行われ、活性酸素種への細胞内対抗戦略としてまとめられています(参考資料1)。有機低分子では還元型グルタチオン(GSH)、タンパク質ではスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼなどが防御に関与します。また、植物にも含まれており酸化劣化を防ぐ役割を担っています。今回は抗酸化物の抗酸化能測定法についてまとめてみました。


酸化性物質の種類

酸素から派生するROSには、スーパーオキサイド(O2・^-)、過酸化水素(HOOH)、一重項酸素(^1O2)、ヒドロキシラジカル(OH・^-)、また、脂肪酸と結合したペルオキシラジカル(LOOH・)、アルコールと結合したアルコキシラジカル(ROH・)などが知られています(^は次の文字が上付きであることを示します。)。これら分子は他の分子を酸化することによって自身は還元されて活性を失います。生体において生じたROSは遺伝子を傷つけることもあり、がんとの関連性も指摘されています。生体におけるROSの発生源はミトコンドリアであり、近傍に遺伝子があると傷害を受けることになりますので、それを防御するために細胞内では還元型グルタチオンなどの低分子化合物によってROSを不活性化し、加えて反応選択的なSODやカタラーゼが関与する仕組みを持っています。


抗酸化性を示す物質

抗酸化能を持つ物質としてよく知られているのがアスコルビン酸で、いわゆるビタミンCです。アスコルビン酸は活性酸素種による酸化によってデヒドロアスコルビン酸となります(図1)。また、ポリフェノールなども抗酸化能を持つ物質の一つとして広い関心を集めていて、ポリフェノールを含む数多くの健康補助食品が市販されています。ポリフェノールは総称で、ブルーベリーなどに含まれるアントシアニンや、大豆に含まれるイソフラボン、お茶のカテキンなどがありますが、それぞれについても様々な種類の化合物がありますので、ポリフェノールに分類される分子の数は膨大です。フェノール化合物は水酸基が付加した炭素の隣の水素が関与し、酸化されることによりその位置で架橋構造をとることが知られています。抗酸化性を示すポリフェノールですが、生体機能への効果は様々で、アントシアニンは目の機能改善、カテキンは腸内細菌叢を整える機能を持つといわれています。

図1 アスコルビン酸と酸化体の構造


抗酸化能測定方法

一般的に抗酸化能はラジカル消去能で表示されます。生体内で発生するラジカルはスーパーオキサイドラジカルやヒドロキシラジカルで、それらを消去できる度合としてラジカル消去能が採用されました。ラジカル消去活性を見るために、さまざまな方法が開発され、ペルオキシラジカル消去活性の蛍光測定法(酸素ラジカル吸収能:ORAC法)、DPPH法、スーパーオキサイド消去活性測定法(SOD様活性測定法)などが使用されています。そのほか、DMPOなどのスピントラップ試薬を用いたESR(電子スピン共鳴法)測定法も使用されていますが、他の分析法に比べ装置の特殊性のためにどこでも測定できる方法ではないことが課題です。ここでは、DPPH法、スーパーオキサイド消去活性測定法についてご紹介します。


DPPH法

図2に示すようにDPPH(2,2-Diphenyl-1-pycrylhydrazyl)は紫色の安定ラジカルで、還元されると無色の化合物(2,2-Diphenyl-1-pycrylhydrazine)になります。そのため、分析対象物質の抗酸化能を色の変化で見ることができます。スーパーオキサイドを発生して分析する方法と異なり、色素そのものがラジカルであることから、生体で発生しているスーパーオキサイドなどの反応性酸化物質を模倣した反応ではありませんが、ラジカルの消去活性を評価するための簡易的な方法として多くの食材や加工品の抗酸化能測定に用いられています。

図2 DPPHの構造と反応


DPPH法による分析の活性単位はトロロックス換算値(トロロックス等価活性値:TEAC)となります。

​​サンプルのTEAC値=IC50(Trolox)/IC50(サンプル)

IC50(Trolox):​DPPH発色の50%を阻害するTrolox濃度、IC50(サンプル):​DPPH発色の50%を阻害するサンプル濃度


スーパーオキサイド消去活性測定法

スーパーオキサイドはキサンチンとキサンチンオキシダーゼの反応によって発生します。発生したスーパーオキサイドを発色系や発光系、蛍光系で測定するための試薬には、チトクロームc、テトラゾリウム塩化合物、ルミノール、フルオレセインなどがあります。チトクロームcは含まれる鉄の酸化還元による色素変化を用いた方法で、スーパーオキサイド消費量を発色量の変化で測定するものです。また、還元によって発色するテトラゾリウム塩化合物も使用されており、最初に使用されたテトラゾリウム塩はニトロTBと呼ばれる化合物ですが、水溶性が低く試薬溶液の調製が難しいことやキサンチンオキシダーゼと反応することが課題でした。新たに開発されたWST-1は高水溶性で、キサンチンオキシダーゼと反応することもなく、またスーパーオキサイドとの反応速度が低いため低レベルの抗酸化能の測定が可能です。図3にその原理を示します。

図3 WST-1による抗酸化能測定原理


生体内と同様の方法で発生するスーパーオキサイドがWST-1と反応することにより、WST-1ホルマザンが生成します。この反応においてビタミン類やポリフェノールなどの抗酸化物質が存在すると、スーパーオキサイドは抗酸化物質による消去とWST-1との反応による消去が同時に進行する競合反応によって消費されます。競争反応の結果、WST-1と反応して生じたWST-1ホルマザン色素の量を測ることで、SOD様活性物質の活性度(ユニット)を規定することができます(色素量が多い=SOD様活性が低い)。発光系ではルミノールが用いられます。原理は同様であり、スーパーオキサイドとルミノールが反応して発光する量を測定します。なお、抗酸化活性は50%阻害を示すウェルを1ユニットと規定し、そのウェルに含まれるサンプル量と希釈倍率から、サンプル単位当たりのユニットに変換します。例えば、サンプル1 gをバッファー100 mlに溶解してサンプル溶液として用い、分析のための試薬溶液中にサンプルを10%含む(例えば、試薬溶液が0.9 ml、サンプル溶液が0.1 mlの場合)、その希釈倍率がA倍の時のユニット数は以下の式で計算されます(図4)。

計算式:​サンプル1 g中の抗酸化活性(U/g)=A x 10 x 100

図4 ユニットの計算方法


弊社SOD Assay Kit-WSTを使ったマイクロプレートアッセイの場合、試薬液量が220 μl、サンプル液量が20 μlなので、50%阻害を示したウェルに含まれるサンプルの抗酸化能は1ユニットで、サンプル液20 μlの抗酸化活性は1ユニットとなります。それを用いてサンプルの希釈倍率や、サンプルの調製濃度などから容量当たりのユニット数を計算します。そのため、測定方法が異なる場合のユニット値の比較はできません。ユニット数が規定されているSODを標準に用いた場合には、それを対照として数値を比較することは可能です。


おわりに

抗酸化能を示す物質は数多くあり、それらを使った健康食品に対する関心が高い状況が続いています。前述のポリフェノールの一つであるレスベラトロールはワインなどに含まれており、寿命遺伝子との関連で話題となりましたが、その効果に対する見解や過剰摂取による腎障害などの課題が提起されています(参考資料2)。抗酸化能を持つ物質の生体への効果に関する様々なデータや知見が出ていますが、生体応答の複雑さに加えて腸内細菌への影響や、また個人の状態の違いによる影響や効果の現れ方が異なる可能性もあります。将来、抗酸化の研究が人々の健康寿命の延伸や科学的知見に基づいた新たな機能性食品の開発に寄与できることを願っています。


参考資料


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