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レジオネラ属菌について



はじめに

レジオネラ属菌によって発症するレジオネラ症は浴場の利用客に多く発生し高齢者の死亡も数多く報告されています。レジオネラ属菌は土壌などに生息しているため身の回りに存在している菌ですが、レジオネラ症として認識されたのは比較的新しく、1976年米国での集団感染が最初といわれています。ここではレジオネラ属菌の生態と感染の仕組みなどを簡単にまとめてみました。


レジオネラ感染症の発生と認知

1976年、アメリカフィラデルフィアのホテルで開かれたThe American Legion(アメリカの退役軍人やその家族、彼らが所属する地域互助会、彼らをサポートする非営利団体の名称)の会合に参加した人々の中から大勢の肺炎症状の患者が出て、そのうちの15%の方が亡くなりました。当初、原因が分からず、米国退役軍人が多く集まっていたこともあって陰謀ではなどと様々な説がでてきましたが、結局は冷却塔から放出されたエアロゾルなどの微小粒子が近くにあったホテルの空調設備の吸気口から取り込まれて会場に流れ込み、それを吸い込んだことによって発症したことが分かりました。レジオネラ(Legionella)は、集団発生があったThe American Legionの会員の名称Legionnaireから取られたものです。また、レジオネラ属菌による感染症は1940年頃にも発生していたことが調査によって確認されていますので、突然にあらわれた感染症ではありません。また、レジオネラ属菌が関与する感染症にポンティアック熱があります。この感染症は肺炎症状を起こさず、発熱や筋肉痛などの風邪症状を引き起こしますが、重篤な状態には至らずに回復します。ポンティアック熱の名前の由来は1968年にミシガン州ポンティアックで発生した集団感染から取られたものです。


レジオネラ菌の増殖と感染

開放系の冷却塔の冷却水には稼働によって大気から有機物や菌が取り込まれ、菌の増殖によって形成されたバイオフィルム中にアメーバが入り込み菌を捕食しながら数を増やします。レジオネラ菌は他の菌と同様にアメーバに捕食されますが、アメーバの食胞膜(菌体を包み込む膜で、包み込まれた構造体はファゴソームと呼ばれる)を改変することでリソソーム(ファゴソームと融合し、中の菌体を分解する細胞内小器官)への輸送をブロックして消化経路を逃れる仕組みを持っています。また、アメーバを利用して増殖し最終的にはアメーバを破壊して外部に出ていき、再びアメーバに捕食されることを繰り返して増殖します。増殖したレジオネラ菌を含むエアロゾルが呼吸で取り込まれ肺胞に達した後、肺胞のマクロファージに取り込まれることで、アメーバ同様にマクロファージの消化を逃れ、マクロファージの機能を利用して増殖し近傍のマクロファージへの取り込みを拡大させていくことで、肺炎症状を引き起こします(図1)。レジオネラ菌は約60種類ほどが知られており、そのうちのレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)が致死性の高いレジオネラ症の発症菌の一つとして知られています。レジオネラ属菌はマクロファージ以外にもいくつかの動物細胞に入り込みます。例えば、HeLa細胞、Vero細胞、CHO細胞、HL60細胞、L2細胞などが感染する動物細胞として文献にリストされています。レジオネラ属菌は免疫機能が低下している場合に死亡リスクが高くなり、心臓への感染をはじめ脳、脊髄などの神経系への感染や肝臓、脾臓、腸など内臓への感染が認められるようです

図1 レジオネラ菌の増殖と感染経路


温泉施設などの浴槽を介したレジオネラ属菌の感染は、同様に浴槽や配管に附着したバイオフィルム中のアメーバを宿主として増殖したものがしぶきやミストとして噴霧される中に含まれるエアロゾルとして入浴時等に呼吸で取り込まれることで起こると考えられています。一般的に若者に感染しても発症に至ることは希で、患者の大多数は高齢者で、男性では60~70歳に最も患者数が多く、女性では75~80歳に患者数が多い傾向があります。また、男性の患者数は女性の5~6倍で、これは、活動傾向と健康年齢、生活の嗜好性によるものと思われます。レジオネラ属菌はアメーバが生息している環境で増殖していくため、冷却水がエアロゾルとなって飛散する場所で必ず感染するかというとそういうでもないようで、幾つかの条件が重なることによって感染しやすくなると考えられています。レジオネラ感染は4類感染症で、感染が確認された場合には医師は保健所に届け出ることが義務付けられています。なお人から人への感染はないとされています。


レジオネラ属菌の培養と検出

レジオネラ属菌は好気性の桿菌で、主に土壌に生息していて生活用水や環境水を通して容易に私たちの生活に入り込むいわゆる常在菌です。体に附着した土などにより家や入浴施設などに持ち込まれます。大腸菌や緑膿菌などと異なりレジオネラ属菌は培養しにくく、当初はモルモットの腹腔内で培養されていた経緯がありますが、現在では選択寒天培地での培養ができるようになっています。使用する寒天培地はBCYeα培地、GVPC培地を併用してレジオネラ属菌の分析に用いられます。両方とも活性炭が入っており、レジオネラ属菌の増殖を抑制するオレイン酸などの脂肪酸を除去する役割があります。寒天培地を用いる方法は浴槽水などのレジオネラ属菌の検査法として公定法で定められていますが7日程度かかるため、迅速にレジオネラ属菌を分析するためには遺伝子増幅法であるLAMP法が用いられます。LAMP法については弊社のサイトをご覧ください(豆知識:LAMP法)。LAMP法だとサンプルの分析開始から約3時間でサンプル中のレジオネラ属菌の遺伝子の有無を確認することができます。但し生菌と死菌の区別ができないため、たとえば浴槽や配管の洗浄後にレジオネラ属菌が存在しているか否かの判断(洗浄効果の確認)や、レジオネラ属菌の存在履歴を管理する目的で使用されます。生菌のみを検出する遺伝子増幅にはEMA(Ethidium monoazide)法があります。EMA法は死菌の膜が破壊されていることを利用して、菌のDNAにEMAを取り込ませ光架橋させることにより増幅阻害を起こして生菌のDNAだけを増幅させる方法です。


レジオネラ属菌の除去方法

浴槽や配管等にバイオフィルムがあるとその中のアメーバに取り込まれ増殖していきます。そのため、バイオフィルムを取り除くことがレジオネラ属菌による感染を防ぐことに繋がります。また、塩素殺菌により菌の増殖を抑えることも必要です。バイオフィルム中の菌は通常の殺菌効果が認められる濃度での残留塩素では死滅させることが難しく、物理的にバイオフィルムをブラシなどで取り除いた後に塩素殺菌を行うことが一般的です。配管などからのレジオネラの汚染がある場合には専門業者に委託することが必要かもしれません。浴槽やプールなどの大勢の人が使用する場所においては、レジオネラ属菌の年一回の検査が義務付けられており、浴槽では毎日の残留塩素濃度の測定(開始時、中間時、修了時の測定、あるいは2~3時間毎の測定)、プールでは1時間毎の測定が求められています。また、塩素イオン濃度も0.4 ppm以上を維持することが必要で、保健所への報告義務があります。


レジオネラ感染症の検査方法

レジオネラ症の検査には、 培養法の他に遺伝子増幅(PCR)検査、尿の抗原検査、 血清抗体価検査があります。PCR法はレジオネラ属菌の特定の塩基配列を利用して遺伝子を増幅して測定する方法で、短時間で検出が可能ですが精度管理が課題といわれています。酵素結合免疫ELISA法による尿を使ったレジオネラ属菌の検出は高感度かつ短時間で結果が得られるため感染を早い段階から検出できる方法です。血清中の抗レジオネラ抗体の検出は主にレジオネラ・ニューモフィラに対して行われており、ベースに対する倍率によって陽性、陰性を判定する方法です。


おわりに

レジオネラ属菌による感染症は私たちの感覚としては比較的新しい印象を持っていますが、The American Legionの会合での感染事例がクローズアップされ、名称にその名前が組み込まれていることが理由の一つだと思われます。アメーバによる捕食を利用して増殖する仕組みと、動物のマクロファージを利用してレジオネラ属菌が増殖する仕組みは似通っていることから、侵入してきた異物を排除する生体防御の仕組みに、菌を取り込んで消化するアメーバの仕組みを持ち込んだものとも見ることができるかもしれません。


弊社では培養法とLAMP法によるレジオネラ属菌検査を行っていますので、お問合せください。


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