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  • shiga67

バイオフィルムーその役割と成り立ち

更新日:5月26日



はじめに

バイオフィルムは身の回りのあらゆる場所に存在しています。例えば、歯の表面や台所や洗面台、お風呂場の流しのヌメリなどがバイオフィルムです。お風呂場の流しの中を掃除せずに放置しておくと、相当な量のバイオフィルムが形成されます。バイオフィルムは基本的に菌がいる環境で適当に栄養分と水分があり一定の温度範囲であれば形成されるもので、菌の集団を保護する役割を果たしています。日常生活において、バイオフィルムの存在はヌメリの気持ち悪さやクリーニングの面倒さ、また感染リスクなどの問題があり、発生元の菌を除去してバイオフィルムの発生や形成を抑える商品が多数販売されています。ただ、数日も経たないうちに生き残った菌の増殖によって再びバイオフィルムが形成されてきますので、いたちごっこの様相を呈しています。今回はバイオフィルムについて纏めてみました。


バイオフィルムの形成

バイオフィルムの形成の流れを上の図で示します。菌は水を含む環境の中で糖や脂質、アミノ酸などの栄養分を取り込んで増殖していきます。その過程で、プラスチックや金属などの表面に付着した菌は栄養分のある環境で増殖しながら糖が連なった構造の高分子を作り出していきます。これは菌体外多糖(Exopolysaccharides: EPS)と呼ばれ、水分を多く保持できる構造体でヌメリの原因物質です。どのようなバイオフィルムが形成されるのかは、その環境と菌種の混在度合いや菌の成長度合いによって変わります。台所や冷蔵庫、浴室などにいる菌は数百種類ともいわれていますので、彼らが混在して作り出すバイオフィルムの世界は混沌とした状態と想像できます。ただ、バイオフィルム形成の初期段階では菌の生育速度によって増えてくる菌は限定的で、まずシュードモナス属菌が繁殖し、次第にマイコバクテリウム属菌や、マイクロコッカス菌などが繁殖してきます。また、その役割から栄養分が少ない環境でバイオフィルムが形成されやすいと思われますが、栄養分の多い環境でも作られることが分かっています。

バイオフィルムの目的の一つは菌を表面に定着させるために作られるもので、菌が流されないようにすることで菌の集団として機能することができ、バイオフィルム形成も効果的に進むものと考えられます。また、バイオフィルムを構成しているEPSは、無秩序に絡み合っているものでもないようで、水が動く水路のような構造があり、その構造によって菌が必要とする栄養分を通し代謝物を排出し、pHを保ち、菌を攻撃する薬物をブロックし、その他の菌とのコミュニケーションを取ってバイオフィルム全体の状況を認識するために必要な分子情報のやり取りをしていると考えられています。菌は単純な一個の細胞生物と思われがちですが、菌が活動して増殖していくために必要な数多くの機能が組み込まれている精緻な生物であり、また、我々の体の細胞や組織がお互いにコミュニケーションをとって協調的に動いていると同様に、多くの菌類が連携しあってバイオフィルム全体を構築し管理していく集団的な生き物であるといえます。


バイオフィルムの問題

菌にとってバイオフィルムは非常に有用な構造体ですが、我々人間にとっては疾病に関わる厄介な構造物です。例えば、医療用カテーテルにバイオフィルムが形成されるとその中の菌に対しては抗生物質が効きにくくなることや、歯科領域においては、虫歯や歯槽膿漏といった病気の治療に対してもバイオフィルムが難しくしている状況があります。また、お風呂場のバイオフィルムはレジオネラ属菌の繁殖を助長し、その感染は免疫力の低い高齢者にとっては致死的な状況になります。従って、バイオフィルムの形成阻害剤の開発や、バイオフィルム中の菌に対して殺菌効果の高い薬剤の開発が必要とされています。加えて、バイオフィルム形成を阻害するような基板の開発も進められています。それらの効果を評価するには、実際に菌を使ってバイオフィルムを形成させてみて、それぞれの効果を評価することになりますが、どうすれば正しく評価できるかが問題となります。

バイオフィルム中には様々な菌類が存在していますので、まず、その状況を再現することが重要になってきます。最も理解しやすい条件は、例えば、バスユニットに使う素材の評価を考えてみると、風呂場の流しに付着したバイオフィルムを綿棒などで採取して培地に入れ、含まれる菌を一定期間培養し、それに評価したい基板や、薬剤を入れ、バイオフィルムの形成度合を染色法などで評価することが考えられます。評価したい場所ごとにバイオフィルムを採取すれば、その環境におけるバイオフィルムの形成が期待できますので、より現場に近い状態で評価することができるかもしれません。一方、単一の菌を使った場合では、バイオフィルムの形成状況は、個別の実験を通して一定になると考えられ、データのバラつきを抑えることができますので、各薬剤や基板間での効果の違いを整理しやすくなるというメリットがあります。いずれにせよ、現場の環境を分析設計に反映させ、数値で評価し比較することによって、薬剤や基板の効果を把握できると考えられます。

バイオフィルムの形成過程では最初に表面にタンパク質などが付着し、それに菌が付着しやすくなることで表面に固定され分裂を繰り返してマイクロコロニーができ、バイオフィルムが作られてその中で生活しながらさらに大きな構造体となっていき、各種の菌が入り込むことで、お互いにさらに住みやすい環境が整っていくことになります。最終的には大きくなったバイオフィルム構造が壊れ、それによって菌を放出し、菌は次なる棲家へと移動していきます。従って、バイオフィルムを形成させないようにするためには、タンパク質などが付着しにくい表面とすること、また、菌が生育できないように抗菌剤などを含む基板とすること、EPSの糖鎖構造を切断して構造を緩くして簡単に洗い流せるようにすることなどが考えられます。できれば長期間に渡って効果が持続する方法がベストなので、安全で有効な手法の開発が進むことが期待されます。


おわりに

バイオフィルムは人類が発生するはるか昔から地球上に存在しており、その中で生物は菌が関与する諸々の影響を回避する手段を獲得しながら進化してきたと考えられます。感染症に関わる菌もありますが、生物が生存していくうえで欠かせない多くの菌があり、バイオフィルムで環境を整えて生存していく彼らとの共存が永遠に続いていくことになります。


*弊社ではバイオフィルムに関する分析を行っています。バイオフィルム形成阻害活性やバイオフィルム中の生菌活性の分析などにご利用ください。

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