バイオフィルム関連分析

分析の目的

 

バイオフィルムは菌が作り出す高分子糖鎖の構造物で、キッチンの流しや浴槽、洗濯槽など常時水が存在する場所に普通に見られます。また、口腔内でも形成されています。バイオフィルムに関しては下の「バイオフィルムについて」をご覧ください。

 

バイオフィルムの分析には、1)バイオフィルム形成量の測定、2)バイオフィルム中の生菌活性測定の二つがあり、各種薬剤によるバイオフィルムの形成阻害効果、破壊効果(除去効果)、バイオフィルム中の菌に対する殺菌効果、またそれらの効果を示す有効濃度の測定に使用されます。バイオフィルムの形成抑制効果、バイオフィルム中の菌の殺菌効果の分析結果を下の実施例でお示しします。その他、基板のバイオフィルム形成阻害効果の分析も行っていますので、基板の処理効果の確認などにご利用ください。お問合せ

分析で使用する菌種

  • 大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)

  • 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)

  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC12732)

​上記以外の菌種での分析についてもお問合せください。

実施例

菌:緑膿菌

菌濃度:1 x 10^6 個/ml

バイオフィルム形成培地:MHB培地

1.バイオフィルム形成阻害効果

被験物質:

  • 溶液A

  • 溶液B

方法:

MHB培地で調製した菌液に段階希釈した被験物質を添加し、それにピンプレートを置いて24時間37℃でインキュベートした。そのピンに形成されたバイオフィルム量を染色色素を用いて測定した。

結果:

各溶液共に被験物質濃度依存的にバイオフィルム形成阻害が観察された。溶液Aの方がバイオフィルム形成阻害効果が高いことが示された。

バイオフィルム形成阻害効果

​2.バイオフィルム中の菌の殺菌効果

被験物質:

  • 溶液A

  • 溶液B

方法:

MHB培地で調製した菌液ににピンプレートを置いて24時間37℃でインキュベートした。バイオフィルムが形成されたピンを段階希釈した各溶液に24時間浸したのち洗浄し、WST法*により菌の生存量を測定した。

結果:

溶液A、Bともに16倍希釈溶液でも生菌に対する殺菌効果が確認され、その殺菌効果は同等であることが示された。

*WST法は生菌数の分析に用いられる方法です。

バイオフィルム中殺菌効果

​バイオフィルムについて

バイオフィルムの形成の流れを上の図に示します。バイオフィルムは基本的に菌がいる環境で適当に栄養分と水分があり一定の温度範囲であれば形成されるもので、歯の表面や台所や洗面台、お風呂場の流しのヌメリなどが身近なものです。例えば、お風呂場の流しの中を掃除せずに放置しておくと、相当な量のバイオフィルムが形成されます。バイオフィルムの成分はほとんどが高分子の糖(菌体外多糖 Exopolysaccharides: EPS)で微生物が作りだしています。どのようなバイオフィルムが形成されるのかは、その環境と菌種の混在度合いや菌の成長度合いによって変わります。台所や冷蔵庫、浴室などにいる菌は数百種類ともいわれていますので、彼らが混在して作り出すバイオフィルムの世界は混沌とした状態と想像できます。ただ、バイオフィルム形成の初期段階では菌の生育速度によって増えてくる菌は限定的で、まずシュードモナス属菌が繁殖し、次第にマイコバクテリウム属菌や、マイクロコッカス菌などが繁殖してきます。また、その役割から栄養分が少ない環境でバイオフィルムが形成されやすいと思われますが、栄養分の多い環境でも作られることが分かっています。

 

バイオフィルムの目的の一つは菌を表面に定着させるために作られるもので、菌が流されないようにすることで菌の集団として機能することができ、バイオフィルム形成も効果的に進むものと考えられます。また、バイオフィルムを構成しているEPSは、無秩序に絡み合っているものでもないようで、水が動く水路のような構造があり、その構造によって菌が必要とする栄養分を通し代謝物を排出し、pHを保ち、菌を攻撃する薬物をブロックし、その他の菌とのコミュニケーションを取ってバイオフィルム全体の状況を認識するために必要な分子情報のやり取りをしていると考えられています。菌は単純な一個の細胞生物と思われがちですが、菌が活動して増殖していくために必要な数多くの機能が組み込まれている精緻な生物であり、また、我々の体の細胞や組織がお互いにコミュニケーションをとって協調的に動いていると同様に、多くの菌類が連携しあってバイオフィルム全体を構築し管理していく集団的な生き物であるといえます。

 

菌にとってバイオフィルムは非常に有用な構造体ですが、我々人間にとっては疾病に関わる厄介な構造物です。例えば、医療用カテーテルにバイオフィルムが形成されるとその中の菌に対しては抗生物質が効きにくくなることや、歯科領域においては、虫歯や歯槽膿漏といった病気の治療に対してもバイオフィルムが難しくしている状況があります。また、お風呂場のバイオフィルムはレジオネラ属菌の繁殖を助長し、その感染は免疫力の低い高齢者にとっては致死的な状況になります。従って、バイオフィルムの形成阻害剤の開発や、バイオフィルム中の菌に対して殺菌効果の高い薬剤の開発が必要とされています。加えて、バイオフィルム形成を阻害するような基板の開発も進められているようです。それらの効果を評価するには、実際に菌を使ってバイオフィルムを形成させてみて、それぞれの効果を評価することになりますが、どうすれば正しく評価できるかが問題となります。

 

バイオフィルム中には様々な菌類が存在していますので、まず、その状況を再現することが重要になってきます。最も理解しやすい条件は、例えば、バスユニットに使う素材の評価を考えてみると、風呂場の流しに付着したバイオフィルムを綿棒などで採取して培地に入れ、含まれる菌を一定期間培養し、それに評価したい基板や、薬剤を入れ、バイオフィルムの形成度合を染色法などで評価することが考えられます。評価したい場所ごとにバイオフィルムを採取すれば、その環境におけるバイオフィルムの形成が期待できますので、より現場に近い状態で評価することができるかもしれません。一方、単一の菌を使った場合では、バイオフィルムの形成状況は、個別の実験を通して一定になると考えられ、データのバラつきを抑えることができますので、各薬剤や基板間での効果の違いを整理しやすくなるというメリットがあります。いずれにせよ、現場の環境を分析設計に反映させ、数値で評価し比較することによって、薬剤や基板の効果を把握できると考えられます。

 

バイオフィルムの形成過程については、最初に表面にタンパク質などが付着し、それに菌が付着しやすくなることで表面に固定され分裂を繰り返してマイクロコロニーができ、バイオフィルムが作られてその中で生活しながらさらに大きな構造体となっていき、各種の菌が入り込むことで、お互いにさらに住みやすい環境が整っていくことになります。最終的には大きくなったバイオフィルム構造が壊れ、それによって菌を放出し、菌は次なる棲家へと移動していくことになります。従って、バイオフィルムを形成させないようにするためには、タンパク質などが付着しにくい表面とすること、また、菌が生育できないように抗菌剤などを含む基板とすること、EPSの糖鎖構造を切断して構造を緩くして簡単に洗い流せるようにすることなどが考えられます。できれば長期間に渡って効果が持続する方法がベストなので、安全で有効な手法の開発が進むことが期待されます。