量子化学計算による反応解析(遷移構造探索)
- m-kato77
- 4 日前
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更新日:1 日前
1.量子化学計算による反応解析
量子化学計算では、様々な化学反応について理論的に解析することができます。遷移構造の探索や反応経路を理論的に求め、その反応が起こりうるのかを確かめたり、活性化エネルギーや反応速度の算出したりすることが可能です。
量子化学計算では、実験では困難な反応(不安定な化合物や危険な反応など)の解析も可能であり、実験コストの削減も可能です。
量子化学計算による化学反応の解析例として、エステル化合物の熱分解反応を取り上げ、遷移構造を求める計算事例を紹介します。
2.エステル化合物の熱分解
エステル化合物は、β位に水素があると比較的低い温度で熱分解し、酸とオレフィンが発生します。この反応は、下図のように6員環構造を持つ中間体(遷移構造)を介して起こるとされており、β位の水素が引き抜かれることで、酸とオレフィンに分解します。これらのことから、エステル化合物の耐熱性を高めるために、β水素がない構造とする方法があります。

本事例では、この6員環構造を持つ遷移構造が存在するのかを量子化学計算で確認したいと思います。
<ポテンシャル平面で見る遷移構造>
量子化学計算において遷移構造とはどういうものなのかについて簡単に説明いたします。そのためにはポテンシャルエネルギー平面(PES)という概念を用いる必要があります。
PESは分子の構造(各原子の位置)に対するエネルギーの変化を示した曲面です。PESの概念図を図1に示します。図の谷にあたる部分が、反応物や生成物を示し、これらは安定な構造です。山になっている部分はエネルギーが高いため通常反応経路にはなりません。2つの山の間にできた谷は、反応物と生成物を結ぶ経路の中で最もエネルギーが低く、エネルギー的に効率的な経路となります。この図で鞍点にあたる部分が遷移構造となります。

量子化学計算では、ポテンシャルエネルギーの鞍点にあたる構造を理論的に求めることで、遷移構造を決定します。
3.遷移構造探索
今回の解析では、6員環構造の中間体に近い構造を初期構造として、量子化学計算ソフトを使って遷移構造の探索を行いました。結果、ポテンシャルエネルギー面で鞍点にあたる構造が見つかりました(図2)。
この構造の振動解析から、β位の水素が引き抜かれる様子がわかります。このことから、今回見つかった遷移構造は、目的としていたβ位の水素が引き抜かれて酸とオレフィンが生成する反応の遷移構造である可能性が高いと考えられます。
今回求めた遷移構造が、本当に求めたい反応の遷移構造であるかを確認するためにはIRC解析(反応経路解析)を行う必要があります。こちらについては、次回以降に紹介したいと思います。




