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純度を測る



はじめに

純度を表す言葉として高純度や超高純度などが使われますが、それらが意味するところは対象によっても異なります。純度が90%程度でも高純度と呼ばれるものもあれば純度が99.99%でも低純度となる場合があり、使う目的によっても場面によっても求められる純度は異なります。また、測る方法によっても「純度」の数値は変ります。純度を数値を基にして高いか低いかを示す必要がない場合は感覚的に品質がいいことを謳う言葉として「高純度」などが使用されますが、単に含まれる物質の量が多いことを表すだけの場合があります。今回は純度についてまとめてみました。


純度を測る目的

貴金属はそのものに価値があるため純度が数値化され、それ以外では物質の性能に影響する場合などに純度を示す数字が必要になります。純度を数値として表示することができるようになったのは、科学的な分析方法が開発されてきたためで比較的最近の話です。金の純度は刻印で知ることができますが、刻印がない場合や怪しい金製品の場合、金の純度を知るためには試金石と呼ばれる石板に素材をこすりつけ線の色を見る、また、硝酸を加えて線が消えないかどうかを確認することなどの方法があり、試金石は現在でも使用されています。貴金属以外で純度が重要なものとしては水があります。水は工業用水として産業に大量に利用されています。目的に応じて求められる純度は異なりますが、一般的に超純水と呼ばれる水は活性炭やイオン交換樹脂、逆浸透膜などを用いて菌、微粒子、有機物、無機物、イオン、用途によってはガスを除いており生化学の研究や医薬品製造、半導体製造の場などで使用されます。水の純度は電気抵抗で測定しますが、理論的に水だけの場合は18.24 mΩ/cmの値となります。また、私たちのような分析会社では試薬の純度が重要になってきます。純度は分析機能を発揮する物質の「きれいさ」を示すものですが、求められる機能を発揮するには、その純度だけではなく含まれる不純物の管理も重要になってきます。そのため、試薬の製品規格には、純度の他に金属含量や水分含量、強熱残分、融点、水溶状、性状などの項目があります。また、使用する目的によってはDNA分解酵素などの酵素活性など特定の物質の汚染がないことを証明する試験が求められます。化成品と呼ばれる有機化合物を用いて製品を作る場合、化成品の製造原料の違いや反応工程、後処理工程、精製工程のわずかな違いによって生じる不純物が製品の性能に影響する場合があります。その場合、不純物の量を測定して管理することも可能かと思われますが、機能に影響を与える不純物が不明で、また、総合的に不純物が関与する場合も考えられるため、実際に製品を作ってみてキチンと機能するか、保存期間中に劣化しないかなど多くの項目を確認する必要が生じる場合があります。


純度の測定方法

物質の純度は、その物質が機能を果たす上で最も重要と考えられる幾つかの方法で測定されます。ココでは、有機化合物の純度測定方法を中心にまとめてみました。


融点:melting point

物質が固体有機化合物の場合は、融点は簡単に純度を知る方法として用いられています。直径1 mm程度のガラス管に少量の有機物を入れ、そのガラス管を硫酸やシリコン油などの液体に浸して温度をゆっくりと上げていき、有機物が融解または分解する温度と融解・分解が始まってから終わるまでの温度幅を測定して純度を知る方法です。高純度であれば、特定の温度域で融解しますが、純度が低いと本来の融点より低い温度から融解が始まり、融けはじめから融け終わるまでの温度幅が広くなります。高純度品との比較が容易で純度を判断しやすい融点は多くの試薬や化成品の製品規格に取り入れられています。


薄層クロマトグラフ:thin layer chromatograph(TLC)(図1)

ガラス板やアルミシートなどにシリカゲル粉末やアルミナ粉末を塗布した基板が使用されます。基板の下の部位に分析したいサンプル溶液をスポットしたあと、適当な有機溶媒や酸や水などを含む混合有機溶媒(展開溶媒)に基板の下端部分を浸し、毛細管現象で溶媒が上昇する間にサンプルに含まれる化合物と不純物が分かれてきます(展開工程)。それを発色剤で目視できるようにした後、不純物スポットの有無と量を目視または画像で評価するものです。純度が高ければスポットは1個になります。TLCは反応の状態を確認するためにも頻度よく使用される分析方法で、原料の減少・消失状態と目的生成物の増加度合、副反応物の生成量などを観察し、反応の進行状況を評価する方法として用いられます。TLCでは不純物のスポットが観察されなければ純度が高いと考えられますが、無機物や検出されにくい成分が混入してくる場合があり、それらの成分が存在するかどうかを別の方法で分析する必要があります。

吸光分光器:absorption spectroscopy(図2)

一定の濃度になるように水や有機溶媒などに溶解した化合物溶液を調製し、その溶液の光の吸収度合を測る方法です。紫外領域から近赤外領域までの波長をセルに入った溶液に当てて、どの波長域の光がどれくらい吸収されるかをみて、化合物溶液の濃度から純度換算するものです。図では、特定の波長の吸光度を測定することにより、溶液Bに含まれる化合物の量は溶液A(純度100%の標準物質)を基準にした場合の70%程度なので、純度は70%と数値化できます。従って、水や不溶物、無機物などが化合物に含まれている場合、吸光度に影響を与えることになります。特定の波長でモル吸光係数(特定の化合物溶液が特定の波長の光を吸収する度合をモル濃度で数値化した値)が定まっている化合物の場合には、その数値を使って純度を数値化することができますので標準物質との比較は不要です。その他、特定の波長域に吸収がないことで化合物の純度を管理することにも使用されています。

旋光計:polarimater

アミノ酸や糖などの化合物は鏡像異性体が混在することがあり、d体、ℓ体としてそれら異性体は区別されます。鏡像異性体を持つ化合物の純度は旋光計を使って測定することができます。旋光計には偏光子が付いており、これによって一定の角度のみに絞り込まれた光を使って、その光が化合物溶液を通過する際に含まれる化合物の光学活性度によって生じた光の角度の変化を測ります。その角度が旋光度として表示されます。また、旋光度を測定する際に影響する濃度、温度、溶媒、セル長、光の波長を一定にすれば旋光度の比較ができるようになり、それによって得られる値を比旋光度と呼びます。鏡像異性体構造となる化合物は、旋光度以外はその対の化合物と同じ物性を示すため通常の分析では区別するのが困難です。そのため、光学異性体の一方が機能を発揮する場合においては旋光度を測定することが必要で、さらに片一方が毒性を示す場合はその検出は極めて重要です。なお、鏡像異性体構造を持つ化合物に不斉構造を持つ化合物を付加して誘導体化すると鏡像異性体構造を取らず、それぞれで物性が異なるためTLCや次のHPLCなどの分離による分析が行えるようになります。


高速液体クロマトグラフィー:high-performance liquid chromatography(HPLC)(図3、図4)

高速液体クロマトグラフは、多くの分析現場には欠かせない装置で主に定量目的で使用されます。カラムと呼ばれる微細な粒子が充填された管を溶媒と共にサンプルを流すことにより、流れていく過程でサンプル中の定量したい成分が分離され、その濃度を検出器により測定するものです。吸光光度計、蛍光光度計、質量分析計、屈折率測定系などの検出器が使えるため、幅広い化合物に適用でき様々な分析に利用されています。検出器のなかでも特に質量分析計はHPLCとの組み合わせによって強力な分離分析方法となります。

純度を高める方法

金属類は精錬によって粗金属とし、その後さまざまな精製法によって純度を高めていきます。一つは電気分解法で、陰極に高純度の金属が析出してきます。金属そのもの、あるいは塩化物として蒸留する方法もあります。また、ゾーンメルティング法と呼ばれる方法などが知られています。有機化合物の精製では再結晶と呼ばれる方法が用いられます。化合物を適当な溶媒に加温溶解させたのち放冷すると、温度低下により溶解性が低くなり溶解していた化合物が析出してきます。この工程を繰り返すことにより有機化合物の純度を上げていくことができます。また、蒸留によって純度を上げる方法もあります。有機溶媒など沸点を持つ化合物はその温度以上に加熱することにより気化し、その気化した気体を冷却することで凝集します。これを繰り返して純度を向上させることができます。また、高温にすると分解が始まる有機溶媒は減圧下で温度を下げて蒸留することができます(減圧蒸留)。拡散ポンプなど高真空を作り出すことができるポンプを使えば比較的低温で蒸留することが可能です。同様に常温で固体の有機化合物も減圧蒸留で精製することができます。また、昇華法と呼ばれる方法で、高真空下で固体を加熱して一部の固体を気化(昇華)させ、冷却部分に結晶を形成させることで高純度化することができます。これは、有機エレクトロニクス材料のように高純度を要求される有機化合物の精製に使用されます。


おわりに

物質の純度を数値化するには何らかの分析手段が必要です。最も高感度な分析法でも10^-15モルレベル程度なので、その技術を用いても1グラムの水に5万個以上の水以外の同一分子が入っていないと検出が難しいということです。また、純度を上げるための精製に際しては用いる溶媒の純度や器具の清浄性、雰囲気からの汚染などについても気を配る必要があります。加えて、化学合成で物質を調製する際に使用する原料は純度や不純物の種類、含量などを吟味して必要に応じて精製することや、保管条件については物質の安定性を考慮して決定することが求められます。高純度化や純度の分析には様々な技術が集積されています。


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