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温度計の仕組みと原理


図1 15世紀から16世紀にかけて考案された温度計


はじめに

瞬く間に梅雨が明け暑い日が続いていますね。こちら熊本も連日35℃前後で推移しています。同仁グローカルは市内よりも150メートルほど高く緑が多いので多少は気温も低いと思われますが、暑いです

コロナ感染症の広がりで、ほとんどのお店や会社の入り口には手指消毒薬と一緒に非接触型の体温計が置かれています。消毒液と一体型になったものや、小規模店舗や企業などではカメラに顔を近づけると体温を表示してくれるもの、大規模店舗などでは複数人の顔を画面で同時に捉えて体温を表示してくれるものなど様々です。コロナ前にはなかった光景ですが今では当たり前になっています。温度計は日常生活だけでなく産業の分野でも使用されており目的に応じて数多くの種類があります。測定する対象によって油温度計や排気温度計、水温計、乾湿度計といった名称も付けられています。温度計は接触型と非接触型があり、接触型は測定したい部分に接触、あるいは挿入して使用するもので、非接触型には物体表面の温度を放出される赤外線などの放射光で計測するものがあります。測定原理には液柱温度計など物理的な変化を目視で捉えるもの、温度変化による電気抵抗や起電力を測定しデータ処理してデジタル表記するものがあり、また、異なる種類の二枚の金属板を張り合わせたバイメタルを利用したものもあります。今回は、温度計について仕組みを紹介します。


最初の温度計

最初に温度計が作られたのが1592年、温度変化によって生じる空気の容積の変化を液面の変化で読む構造のものでした(図1A)。16世紀には密封したガラス容器の中にアルコールを入れ、温度によるアルコールの密度変化で中のウキ(浮沈子)が上下することで温度を測る温度計(図1B)、および密封したガラス管に液体を入れ、温度変化による液体の容積の変化でその液面が上下することにより温度を測る温度計(図1C)などが開発されました。

図1の(A)は空気温度計でガリレオまたはサントーリオが発明したとされています。(B)はガリレオの弟子が発明し命名したとされるガリレオ温度計、(C)はフィレンツェ温度計と呼ばれています。フィレンツェ温度計は現在の液体温度計の基礎となるものです。ガリレオ温度計はその形状の美しさから室内装飾品としても販売されています。当時はガラスづくりの技術を駆使して様々な形態のガラス温度計が考案されています。フィレンツェ温度計には当初アルコールが用いられていましたが、大気圧測定に使用されていた水銀が使われるようになりました。水銀の規制やデジタル表示する温度計が安価で入手できるようになったことで、水銀温度計を目にすることは少なくなりました。家庭では体温計を含めほぼデジタル温度計になっています。17世紀には現在使用されている温度指標の摂氏(セ氏 Celsius、℃)や華氏(カ氏 Fahrenheit、℉)などが用いられるようになりました。いずれも考案者の名前が由来です。カ氏の発表がセ氏の発表よりも20年ほど前とされています。


液体温度計(棒状温度計、ガラス製温度計)

液体温度計には水銀や着色した灯油、エチルアルコールなどが用いられます。ガラス管にそれらを封入したもので、温度変化によって水銀が膨張したり収縮したりすることを利用しています。水銀や灯油の熱膨張率がガラスよりも大きいため温度変化を容積変化として捉えることができます。水銀温度計は-38℃から360℃の測定が可能ですが、窒素ガスや炭酸ガスが高圧充填された700℃まで測れる水銀温度計や、タリウムを加え-60℃の低温域まで測定できるものもあります。赤色色素や青色色素で着色された白灯油を用いた温度計は-100℃から200℃の範囲での測定が可能です。着色には高脂溶性で耐光性、耐熱性にすぐれた有機色素が使用されているものと思われます。なお赤色色素は紫外線に弱く屋外で使うと赤色が次第に退色してきますが、青色色素は紫外線に強く屋外でも使用できます。水銀を使用する利点は、熱伝導速度が速いので短時間で測定できること、ガラスに附着しにくいので精度良く測定できることが挙げられます。水銀の毒性により高精度を目的とした温度計以外には使用できなくなったこと、加えてデジタル体温計の普及などから見かけることは少なくなりました。

液体温度計は正しい使い方をしないと正確に温度を測定できません。温度計を全部浸すもの(完全浸没)、最大液面まで浸すもの(全浸没)、浸没線まで浸すもの(部分浸没)のいずれであるかを確認して使用する必要があります。それぞれについて図2に示します。浸没線がない温度計は全浸没で測定しなければなりません。気温を測定する温度計は完全浸没で、液体の場合は全浸没か部分浸没となります。シリコンオイルなどを用いる融点測定装置で使用する温度計は部分浸没型です。浸す位置によって温度計の膨張度合いが異なるため、液柱面まで浸らない状態、あるいは部分浸没線まで浸らない状態で温度を測ると、周囲の温度より高い液体の温度を測る場合には実際よりも低く、低い液体の温度を測る場合には実際よりも高くなりますのでご注意ください。

電気抵抗温度計

物理的な指標に基づいた温度計が考案され、温度単位もある程度収束してきた19世紀以降、電気的な指標による温度計が考案されるようになりました。その一つが電気抵抗温度計です。金属は伝導電子の移動により電気が流れます。一般的に金属の温度が上がると金属格子の振動が大きくなることにより電子の移動度が低くなり抵抗値が上がります。この電気の流れを測定することにより温度を測ることができます。これには白金、ニッケル、コバルト、銅といった金属が使用されます。白金は0℃の時に電気抵抗が100オームになり、温度変化による抵抗の変化が大きいことと直線性がいいことから高精度の温度測定に用いられます。測定できる温度域は-200℃から600℃と広く、主に工業用途で使用されています。

サーミスタは金属の代わりに半導体を用いた電気抵抗温度センサーです。半導体ではいくつかのパターンを作り出すことが可能です。例えば、NTCサーミスタ(Negative Temperature Coefficient)は温度が上がると抵抗値が減少し、PTCサーミスタ(Positive Temperature Coefficient)は温度が上がると抵抗値が上昇します。また、CTRサーミスタ(Critical Temperature Resister)は温度上昇に伴って抵抗値は上がっていきますが、ある温度を超えると急激に抵抗値が減少するものです。ここでは主に温度計や温度センサーに使用されるのはNTCサーミスタについてご紹介します。その原理を図3に示します。半導体は金属などの導体とセラミックなどの絶縁体の中間にあってわずかに電気を通す物質です。禁制帯の幅によって導体か半導体か絶縁体かが決まります。この禁制帯を超えて価電子帯から伝導帯へと電子が移動することで電気が流れます。熱を加えることにより価電子帯の電子は禁制帯を超えるエネルギーを得て伝導帯へ移動します。従って温度が高くなるほど価電子帯の電子はエネルギーを得て伝導帯へと移動していくため抵抗値は減少することになります。この抵抗値の減少を捉えて温度を測定することができます。鉄やニッケル、マンガン、コバルトなどの金属酸化物焼結体が使用されます。NTCサーミスタは室内温度計や体温計、エアコンの温度センサーなどに利用されています。PTCサーミスタは温度が上がると電気抵抗値が上昇する性質を利用してヒーターにも利用されています。

図3 半導体の電子の動き


熱電対温度計

二種類の異なる金属線の両端を結合し、一方の結合端ともう片方の結合端の間で温度差があると、起電力を生じます。その起電力の大きさを温度に変換するものです。金属の種類によって起電力の大きさも変わります。金属の電子の放出度合が温度によって変化するため、金属の両端で温度差があると高温部から低温部へと電子が流れることにより起電力が発生します。その概略を図4に示します。金属線A、Bの組み合わせで温度変化による起電力は定まりますので、その起電力から温度を表示することができます。


図4 熱電対温度計の概略


異なる種類の金属線A、Bが一端でつながり、それら金属線のもう一端がリードで起電力測定装置につながっている場合、温度変化領域①で測定対象の温度T1と温度T2の差で起電力が生じ、同様にT1と温度T3の差で起電力が生じます。また、T2とT4、T3とT4で起電力が生じます。T2とT3で冷接点補償(それぞれの温度を測定し温度補正するもの)を行い、起電力から測定対象T1の温度を求めます。一般的には金属線AとBが結合している端子部分をサーミスタ温度計などで測定し、その値からT1の温度を補正します。また、T2、T3、T4の温度が等しければ、その温度を冷接点補償してT1の温度を求めることが出来ます。熱電対で測定できる温度範囲は-200℃から1,700℃と非常に広く、応答速度が速いことと微小領域の温度を測定できることが特徴です。


バイメタル温度計

金属組成の異なる二枚の板を張り合わせたもので、それぞれの金属板の熱膨張率の違いによって板の形状が変化します。この変化を捉えて温度表示できるようにしたものがバイメタル温度計です。液体温度計と同様に、電気が不要なので設置が容易であり大部分金属で構成されているので耐圧性、耐久性が高い温度計といえます。バイメタルの金属板の反りを増幅できるように長金属板がコイル状に巻かれており、熱による板の延伸、収縮を回転に変えることで、直接、温度の読み取りができるようになっています(図5)。簡易温度計として、土壌の温度や調理時の油の温度を測るなどに用いられます。


図5 バイメタルを使用した温度計


放射温度計

放射温度計は赤外線や可視光線など幅広い波長域の光を捉えて温度を測定するものです。物体は電磁波を発し、その波長は温度に依存することが知られています。あらゆる波長域の電磁波を吸収する物質は黒体と呼ばれ、黒体は温度に特有の波長の電磁波を放出するため、その波長を測定することにより黒体の表面温度を知ることができます。それを利用して、はるかかなたの恒星の温度を測定することも可能です。非接触型体温計は赤外線を測定して体表面温度を測定するもので放射温度計の一つです。赤外線をレンズで集光し検出素子(サーモパイル)を温めることで検出素子の温度上昇を電気信号に変換して数値化します。素材によって放射率と反射率、透過率が異なるのでその素材ごとに放射率を用いて補正することが必要になってきます。それぞれは、放射率+反射率+透過率=1の関係があり、放射率の高い物質ほど高感度に測定でき、放射率が低い(反射率や透過率が高い)物質は周囲の影響を受けやすく、正確な温度測定が難しくなります。黒体の放射率は1(反射率0)ですが、鏡面のように磨き上げられた面からの放射率はほぼ0(反射率1)で、そのため測定したい物質の反射率をあらかじめ知ったうえで温度を測る必要があります。


おわりに

物理的な変化で温度を測定する装置、温度を電気信号として捉え数値化する装置、放射光から温度を測定する光学的な装置などについて紹介いたしましたが、特殊な用途として細胞の中の局所の温度も測定できる蛍光色素も開発されています。生きた細胞内の局所の温度を蛍光強度の変化や蛍光寿命の変化などを画像で解析するものです。これまでに様々な温度計が考案され実用化されてきましたが、これからも目的に応じて新たな温度測定方法が開発されていくことと思います。

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