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細胞活性評価法について

更新日:4月21日

はじめに

細胞を実験に使用できるようになったのは、細胞培養技術と株細胞の樹立によるところが大きく、20世紀初頭から半ばにかけて行われた研究の成果といえます。培地は等張液(生理食塩水、0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)から始まりリンゲル液の開発、血清添加培地の使用、トリプシンによる付着細胞剥離に加え、不死化動物細胞の先駆けとしてマウス線維芽細胞由来のL929が20世紀中盤頃に報告され、ほどなくしてヒト株細胞であるHeLa細胞が樹立されました。その後、様々な動物の株細胞が作られ、それらを使ったタンパクの生産が行われるようになり、また、20世紀終盤から21世紀初頭にかけてヒト胚盤胞由来のES細胞、ヒト体細胞由来のiPS細胞が樹立できたことで、研究だけでなく細胞治療の道も開かれました。このような細胞を使った研究は医学、薬学、工学、理学、農学など幅広い分野で実施されています。その内の一つに培養細胞を用いた細胞障害性試験があります。薬剤や環境などが細胞に与えるダメージの程度を細胞機能を指標として数値化するもので多くの方法があります。今回は細胞活性を指標とした分析法を中心にご紹介します。


細胞活性を指標とする分析の目的

細胞活性の指標には、細胞膜の透過性、細胞内酵素の活性、ミトコンドリアのエネルギー産生、細胞全体の代謝活性、複製能力(核酸取り込み活性)などがあります。細胞活性を測る目的は、何らかの刺激が細胞機能にどの程度影響するかを数値化して加えた刺激を評価するためです。例えば、細胞培養液に薬剤を入れた場合、細胞機能に負の影響を与えるものであれば、薬剤の濃度依存的に細胞の増殖活性や代謝活性は低くなります。その薬剤の細胞障害の強さを細胞機能の半分を阻害する濃度IC50値(half maximal inhibitory concentration)として表記することができます(図1)。

図1 細胞活性阻害曲線とIC50


薬剤の濃度が高くなるにつれ、活性分析法によっては一旦細胞活性が上昇するようにみえる場合があります。これは、低濃度の薬剤刺激によって細胞の活性が上がる領域があり、図1の黄色で示した程度の上昇や元の倍以上の活性を示すものもあります。その濃度域を越えていくと徐々に細胞活性が低下し、活性が元の半分になる濃度が見つかります。それを50%阻害濃度といいIC50と表記されます。つまり細胞に損傷を与える物質の毒性を表したものがIC50で、その値が低いほど毒性が高いということになります。逆に細胞活性を上昇させる物質もあり、その場合は物質濃度と上昇率を表記する、あるいは濃度と活性値のグラフを示すことになります。


代謝活性を指標とした分析

・MTT法、WST法

MTTはモノテトラゾリウム塩で分子内にチアゾール構造を持つ化合物です。MTTを使った細胞アッセイが初めて紹介されたのが今から40年前の1983年です。MTTアッセイが出た当時は、すでにマイクロプレートリーダーも市販されており、数多くの条件で評価する必要がある薬剤開発にとって、96ウェルプレートを使ってハイスループット分析できるMTTアッセイはうってつけの方法で、サンプルの毒性評価が簡単に実施できるようになりました。このような細胞代謝活性分析は、MTT法以外に、XTT法、MTS法、WST法と、用いる化合物によって数種類の試薬キットが販売されています。MTT法とその他の方法の違いは、MTT法にはMTTのみが用いられているのに対し、その他の方法には各試薬に加えて電子メディエータと呼ばれる試薬が使用されています。MTT法およびその他の方法としてWST法の分析原理を図2にそれぞれ示します。



図2 MTTアッセイとWSTアッセイの反応の仕組み


MTTはカチオン性分子で細胞膜を透過しミトコンドリアに集積する性質があります。そのため、MTTはミトコンドリアで脱水素酵素の補酵素であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)から電子を受け取りMTTホルマザンになります。MTTホルマザンは水に不溶なため分子が集合して針状結晶を形成します。一方、WSTはアニオン性分子で細胞膜は透過できません。電子メディエータと呼ばれる分子は細胞膜を透過し細胞質およびミトコンドリアで還元を受けて還元型メディエータとなり、細胞膜を通り外のWSTに電子を渡してWSTホルマザンとし、再び電子メディエータとして細胞内へ入り込んでいきます。WSTホルマザンは高水溶性のためMTTのような溶解操作は不要で、試薬添加後1時間から数時間インキュベーションしたのち、そのまま吸光度を測定することができます。MTTはミトコンドリアの還元力を指標としており、WSTはミトコンドリアを含め細胞全体の還元力を指標としているので、薬剤の効果がミトコンドリアのみを対象とする場合は、MTTアッセイとWSTアッセイで測定したIC50値に違いを生じることがあります。


・ATP発光法

ATPは細胞内の解糖系やミトコンドリアのクエン酸回路で作り出される細胞の主要なエネルギー源で、筋収縮のみならず様々な酵素反応や遺伝子複製や発現などにおいて重要な役割を担っています。このATPをルシフェリンールシフェラーゼ反応を利用して測定する方法があります。ルシフェリンールシフェラーゼは酸素とATPとマグネシウムを必要とする反応でATP量依存的に発光するため、細胞数のレンジがきわめて広く高感度な分析法です。細胞内ATPを測定するため、細胞を界面活性剤などで溶解させる必要がありますが、同様に発光分析用マイクロプレートを用いた分析が可能です。


複製機能分析

・BrdU法

細胞は分裂に際してDNAの複製が起こります。初期の細胞増殖アッセイはトリチウム(放射性水素)を含むチミジンを用いて、DNAに組み込まれたトリチウムの量を放射線カウンターで測定する方法でした。その代替法として臭化デオキシウリジン(BrdU)を用いてDNAに組み込まれたBrdUを抗体法で検出する方法が開発されました。抗体にはHRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)が結合しており、その活性を比色分析で測定します。HRPについては、前回の豆知識-「酵素の仕事」シリーズ⑨でご紹介しておりますのでご覧ください。放射性同位体を用いないため取り扱いも容易で、プレートアッセイにも対応しており、WST法などと同様に細胞増殖能の評価にも使用されますが、原理的にはDNA複製に影響を与える薬剤の評価に効果的な方法といえます。同様の原理で抗体の代わりにクリックケミストリーを用いた方法もあります。


細胞内酵素活性

・カルセイン-AM法

生細胞内の酵素を利用した細胞活性分析法にカルセイン-AMを用いた方法があります。カルセイン-AMは細胞膜を透過し生細胞内にあるエステラーゼによって加水分解されます。加水分解されて生じたカルセインは4つのカルボキシル基を持つため細胞膜透過性がなく細胞内から抜け出しにくくなり、また蛍光性となるため生細胞が蛍光を発するようになります。蛍光強度を測定することで生細胞数を知ることができます。同時にDNA蛍光染色剤であるPI(ヨウ化プロピジウム)と一緒に染色するとPIは壊れた細胞膜を通り死細胞のDNAを染色するため、生細胞と死細胞の染め分けが可能となります。蛍光顕微鏡での観察で生細胞数と死細胞数をカウントすることで細胞の状態を把握することができます。


生細胞、死細胞の分析

・トリパンブルー法-細胞膜損傷を指標とした分析

細胞の生死を判別するために用いられる試薬としてトリパンブルーがあります。トリパンブルーは細胞膜が壊れた細胞に入り込んで青色となりますが、生細胞は染まりにくいので血球計算版で生細胞と死細胞をカウントすることができます。これは細胞の活性自体を指標にした分析ではなく、細胞が障害を受けた結果として細胞膜が壊れてトリパンブルーが細胞内に入り込みタンパク質などを染色した結果、細胞が青く着色されるもので、細胞膜が損傷している細胞=死細胞、細胞膜が損傷していない細胞=生細胞という区分になります。トリパンブルー染色は、生細胞と死細胞を色で分別できるため、細胞懸濁液とトリパンブルー溶液を混合し、カートリッジに入れて専用装置に差し込むだけで生細胞数と死細胞数をデジタル表示してくれるため、血球計算板の面倒くささがなく、装置も安価ということもあってよく使用されています。ただし、付着性細胞はトリプシンなどで剥がす必要がありますので、その際に細胞にダメージを与えないようにすることが重要です。


・クリスタルバイオレット染色法-細胞接着性変化による分析

細胞障害を受けて基板への接着性が失われた細胞を洗浄操作で除いて、基板上に残った細胞を染色してアルコール溶液でタンパクや糖鎖に吸着した色素を溶解させたのち吸光度を測定して評価する方法です。クリスタルバイオレット以外にスルホローダミンBが用いられることもあります。また、DNAあるいはタンパクと結合して蛍光を発する色素を用いた分析方法もあります。この方法は細胞を剥離させる必要はなく、マイクロプレート上で実施できるため、比較的簡便な方法ですが、細胞の付着性を指標としているためバラつきも大きく測定回数を増やして実施することが必要です。


おわりに

培養細胞を使った分析は二次元に広がった一種類の細胞を使った評価法が主流ですが、スフェロイドを使った分析や三次元組織モデルを用いた評価も行われています。また、iPS細胞でさまざまな疾患の原因となる細胞を作り出しそれを使って治療法を開発する試みや、心筋細胞シートを作り薬剤の毒性を評価する方法も開発されています。組織をチップ上に構築して体内の環境に近い状態で評価する検討も進んでいますので、いずれは人の体の大部分の組織モデルが細胞によって構築され、AIによる解析と併せて薬剤の開発に大きく寄与することが期待されます。

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