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「酵素の仕事」シリーズ 7)アンジオテンシン変換酵素(ACE)

Angiotensin I構造

​図1)アンジオテンシンIの構造とACEによる切断位置(赤矢印)

図1に示す構造の分子、Angiotensin IとAngiotensin IIは血圧調節に関わる分子です。今年、第一回目はACE(アンジオテンシン変換酵素)についてです。ACE2は新型コロナウイルスの認識タンパクとして知られていますが、今回は、ACEについての豆知識です。

血圧調節は生体にとって重要な機能の一つで、アンジオテンシン変換酵素は血圧上昇に関与する物質です。血圧上昇の機構についてアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme: ACE)を軸に、関連する基質化合物の構造をお示ししながらご紹介いたします。

 

腎臓は血液から老廃物や水分、過剰な塩分などを濾過して尿として排出する器官であることはよく知られていますが、血流量(正確には腎潅流圧)やナトリウムイオンなどの電解質濃度をモニターする器官でもあります。血流量の低下や、ナトリウムイオンの低下により、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が働きます。レニンは酵素の一つで、血流量低下やナトリウムイオンの低下などにより、腎臓糸球体に入る細動脈の内側にある傍糸球体細胞から血液中に分泌され、血液中のアンジオテンシノーゲン(肝臓で製造されます)と呼ばれるタンパクからN端10アミノ酸ペプチドを切り出す機能を持っています。切り出されたペプチドはアンジオテンシンI(Ang I)と呼ばれるもので、このペプチド自体には血圧調節に関わる活性はありませんが、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によりAng IのC端2アミノ酸が切り離されることにより、血圧調節作用を持つアンジオテンシンⅡ(Ang II)が作られます(図1)。Ang IIはその受容体AT1に結合することにより、血管平滑筋収縮作用によって血管を収縮させ血圧を上昇させます。また、副腎皮質からのアルドステロン分泌を促し、ナトリウムイオンを再吸収し体の水分量を上昇させます。

 

ACEはAng Iを分解する機能に加え、キニナーゼII活性も持っています。キニナーゼIIは血圧降下作用を持つブラジキニンを分解し不活性化するため、血圧上昇の抑制を防止することになり、ACEは二つの酵素機能により血圧上昇に寄与することになります。ブラジキニンはキニノーゲンをカリクレンが分解することにより切り出される9アミノ酸ペプチドで、ブラジキニン受容体(B2R)と結合することにより、血管拡張や血管内皮細胞の間隙が開くことによる血管透過性の向上などを引き起こします。ブラジキニンはACEのキニナーゼII活性によって2アミノ酸ずつ切断され不活性化されます(図2)。従って、ACEは二つの活性により血圧上昇に強く関与する酵素といえます。

 

以上のことから、血圧上昇を抑制するためには幾つかの方法が考えられます。一つはACEの阻害活性を持つ化合物を投与すること、もう一つはAT1にAng IIが結合できないようにブロックすることです(図3)。ACE阻害剤としては、Captopril、Enalapril、Alacepril、Temocaprilなどが知られており、AT1受容体拮抗薬としては、Losartan、Candesartanなどがあります。ACE阻害薬は高血圧の治療薬として以外に心不全や臓器障害の治療薬としても使用されています。AT1受容体拮抗薬はブラジキニン分解を抑制しないために血管拡張作用はなく、高血圧治療の第一選択肢である場合が多いようです。

​ACE阻害活性分析を行っています。詳しくは、こちらをご覧ください。ACE阻害活性は、焼酎の搾りかすにもあることが分かりました。

Bradykinin構造

図2)ブラジキニンの構造とACEによる切断位置(赤矢印)

ACE作用機序図.png

図3)血圧調節に関わるレニン-アンジオテンシン系におけるACEの作用点

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