量子化学計算による反応解析(反応経路IRC解析)
- m-kato77
- 7 時間前
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1.はじめに
量子化学計算では、様々な化学反応について理論的に解析することができます。遷移構造の探索や反応経路を理論的に求め、その反応が起こりうるのかを確かめたり、活性化エネルギーや反応速度の算出したりすることが可能です。量子化学計算では、実験では困難な反応(不安定な化合物や危険な反応など)の解析も可能であり、実験コストの削減も可能です。
前回の記事では、エステル分子の6員環構造を経由した熱分解反応を取り上げ、本反応の遷移構造を量子化学計算で求めました。本記事では、前回求めた遷移構造が、実際の反応の遷移構造となっているかを反応経路解析(IRC解析)で確認します。
前回の記事
2.IRC解析について
前回の記事で解析した遷移構造では、振動解析の結果からエステル分子のβ位の水素が引き抜かれる様子が示されており、この反応の遷移構造である可能性が高いと考えられます。しかしこれだけでは、この遷移構造が実際の反応物、生成物につながっているかは保証できません。IRC(Intrinsic Reaction Coordinate 固有反応座標)解析では、遷移構造から最小エネルギー経路を探索し、反応物(または生成物)に至る経路となっているかを確認します。
図1にポテンシャルエネルギー平面の概念図を示します。前回の記事で示したものと同じものです。IRC解析では、図の遷移構造の位置から最もエネルギーが小さい経路(谷にあたる経路で図1では点線で示した経路)を辿って行っており、谷を下った先が反応物や生成物となっているかを確認します。

3.IRC解析で求めた反応経路
IRC解析の結果から求めた遷移構造は、反応物であるエステル分子と生成物である酸とオレフィンにつながっていることがわかりました。IRC解析も求めた反応経路を動画(図2)で示します。エステル分子が6員環構造となりながら水素を引き抜き、分解されていく様子がよくわかります。
4.反応エネルギーと活性化エネルギー
一連の反応解析の結果から、反応エネルギーを求めてみました。結果を図3に示します。活性化エネルギーは、186.5kJ/molで反応熱は、50.2kJ/molと計算されました。C-C結合の結合エネルギーが約350kJ/molとされていますので、この反応は優位に進行すると考えられます。β位に水素があるエステル分子が熱分解しやすいということは、量子化学計算の結果からも分かります。





