シリーズ:有機分子を見る―糖④マルトース
- shiga67
- 4月8日
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はじめに
マルトース(麦芽糖)はグルコースがα-1,4グリコシド結合でつながった構造の二糖で、デンプンやデキストランからβ-アミラーゼによって生成する主な糖として知られています。β-アミラーゼは麦芽(Malt)に多く含まれており、ビールやウイスキーの原料となる麦汁(Wolt)の生産に関与する酵素で、マルトースの生産に欠かせない酵素です。その麦汁を酵母が代謝する工程でアルコールと二酸化炭素が産生されます。麦芽は大麦を使い、焙煎工程を経て保存できる状態とし、低温焙煎からマルターゼ活性が高くあまり着色していない麦芽、焙煎温度が高くマルターゼ活性が失活している強く着色した麦芽、その中間など数多くの種類の麦芽があります。今回はその麦汁の主要な糖であるマルトースの分析方法についてご紹介いたします。

マルトースの分析法
酵素反応による分析
マルトースをグルコースに分解する酵素であるマルターゼ(α-グルコシダーゼ)により生じたグルコースを測定する方法です。マルターゼによってマルトース一分子から二分子のグルコースが生成しますので、そのグルコースをグルコースオキシダーゼを用いて分解し、生じた過酸化水素をペルオキシダーゼを用いて発色反応に持ち込み、吸光度変化量からサンプルに含まれるマルトース量を測定します。グルコースの測定には、血糖値測定における重要性から様々な方法が開発されていますので特に指定の方法はありませんが、研究室等で組み上げる場合には、容易に入手でき安価で取り扱いやすく安定性が高い試薬として、グルコースオキシダーゼとペルオキシダーゼを組み合わせた方法がおすすめです(図2)。グルコースオキシダーゼはβ‐グルコースを基質としますので、α-グルコースをムタロターゼを用いてβ体に変換する操作も必要となってきます。ただ、β体とα体の溶液中での比率は約6:4なので、ムタロターゼを加えずにグルコースを用いた検量線から濃度を求めることも可能です。ムタロターゼは試薬として販売されていますので、マルターゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼの一連の酵素系と組み合わせると原理的に測定感度の向上に繋がります。

比色分析にはこれまで数多くの試薬が用いられてきました。酸化によって可視領域に吸収を持つ色素として、フェノール化合物やアニリン誘導体が用いられています。また、生じる色素の波長を変化させて着色サンプルからの妨害を除く試みや検出感度を向上させるためのカップリング剤と呼ばれる試薬も用いられています。酵素と試薬すべてを含む溶液にサンプルや標準液を加え、一定時間インキュベートして発色させ吸光度を測る方法が最も操作性に優れているので、グルコースオキシダーゼとペルオキシダーゼの酵素反応の至適pHや、試薬サンプルに含まれる物質による酵素反応阻害、発色反応への阻害など、様々な要因に気を配る必要があります。そのため、使う試薬のグレードや種類についても検討する必要がでてきます。
機器分析法
機器分析としては、フルクトースでご紹介したHPLC(高速液体クロマトグラフィー)やGC(ガスクロマトグラフィー)が用いられています。ご興味のある方はフルクトースをご覧いただければ幸いです。
おわりに
弊社の近くには大手飲料会社のビール工場があり、そこではビールの製造工程を詳しくご説明いただいて、原料となるモルトを味わったりホップの香りを嗅ぐことができます。発酵槽や熟成タンク、充填システムを眺めながら、最後にビールの試飲の機会があり、楽しく学んで異なるビールを味わうことができるため、これまでに複数回知人を連れていきました。私たちは試薬として販売されている酵素を分析に利用しているため、ロットのバラつきは大きくはありませんが、原料に含まれる酵素も使いながらバッチ式で一定品質の製品を作り出すには、原料の管理やセンサー管理だけでなく経験を積んだ技術者や職人と呼ばれる方々の様々な工夫やご苦労があるのだろうと感じました。
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