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シリーズ:有機分子を見る―糖①グルコース

はじめに

身の回りには様々な有機分子であふれています。私たちの体も大部分は有機分子で構成されていて、そのために食事で取り込む分子もほとんどが有機化合物です。それらは基本的にタンパク質、糖質、脂質で、タンパク質はアミノ酸から構成され、糖質は糖が連なった構造体、脂質は主に脂肪酸とグリセロールから成り、数多くの構造があります。それらは消化器官において分解吸収され体液循環に入り蓄積され、必要に応じてエネルギーや細胞を構成する分子、酵素を作り出すために使用されます。今回はそれら分子の一つであるグルコースについてその分析法をシリーズでご紹介いたします。


単糖の分析

糖は、分子の大きさにより、大きく多糖、オリゴ糖、単糖に分類されます。多糖は基本となる単糖が連なった巨大分子で、数万から数百万の分子量を持つポリマーです。オリゴ糖は単糖が複数個連なったもので、単糖は一分子の糖、二糖は単糖が二個結合したものです。単糖にはグルコースやフルクトース、ガラクトースをはじめ、いくつかの糖が知られています。糖分析においては、HPLC(液体クロマトグラフ)、GC(ガスクロマトグラフ)など、分子構造の違いを認識して分離し、HPLCではRI(示差屈示差計)で検出する方法、GCではFID(水素炎イオン化検出器)やMS(質量分析器)で検出する方法一般的ですが、測定するサンプルの複雑さ(他の糖や分子が数多く含まれている)や、測定の目的やサンプルの量、測定する濃度域、検体数、分析単価などによって、どのような方法が妥当かを考える必要があります。グルコースは臨床的な目的で測定されるため、さまざまな方法が開発されてきましたが、フルクトースは多検体分析を必要とする臨床目的の分析ではないため、一般的にはHPLC分析が主流で、ガラクトースも同様です。フルクトース、ガラクトースの酵素法による分析も開発されていますが、主に研究目的で使用されています。


グルコースの分析法

血中グルコース濃度は、臨床検査の重要な項目の一つです。糖尿病との関連が極めて強く、付随するインシュリン治療におけるモニタリングの必要性があることと、潜在患者が極めて多く、また高頻度で測定する必要性があることから、その分析市場規模は他の臨床検査項目に比べ大きく、市場の数パーセントでも獲得できれば、数百億円単位の売り上げが見込めることもあり、各社が競って開発に乗り出しました。その開発における条件は迅速で正確、かつ測定単価が安いことでした。グルコース濃度の測定法は、現在では酵素を使って生じた分子を電気化学的に測定する方法が一般的ですが、初期にはアルカリ条件におけるグルコースの還元力を利用する方法のSomogye-Nelson法や、Hagedorn-Jensen法などが開発されています。その後、いくつかの化学的方法が開発されましたが、多検体を安全に測定する必要があることと、膨大な検体数の処理が必要であることなどにより、酵素法によるグルコース分析が開発されました。酵素法に用いる酵素には、グルコースオキシダーゼ、グルコース脱水素酵素、ヘキソキナーゼなどがあります。それら酵素を使った分析法を比色分析と電極分析でご説明します。


比色分析法

図1-1 グルコースオキシダーゼ比色分析法

図1-2 ヘキソキナーゼーグルコース6リン酸脱水素酵素比色分析法


比色分析においては、色素にはフェノール系、アニリン系などが用いられ、それらと結合して発色するカップリング剤と呼ばれる4-アミノアンチピリンが用いられます。サンプルに血清を用い、グルコースと選択的な酵素を用作用させ、生じる過酸化水素を色素として分析する方法で、吸光度で測定できるため、臨床検査用途として広く使用されるようになりました。糖尿病患者の血糖値の測定は、日常生活においても必須で、個人で測定できる装置開発が必要となりました。そこで、この方法によるドライケミストリー法が開発されました。血液を試験紙に染み込ませると分離層、反応層を通り、最終的に生じた色素が裏面に出てくるので、その発色量を測定しグルコース量を求める方法です。比色法とともに開発された方法が電気化学的な手法でした。電気化学分析においては、酵素反応によるメディエータの変化量を電気的に計測します。ここでは、その原理の一部をご紹介します。


電極法

図2-1 グルコースオキシダーゼ電極法

図2-2 グルコース脱水素酵素電極法


電極用のチップは、電極をプリントした基板の上に必要な試薬を載せる方法で作成されています。電極法においては、メディエータの選別が重要になってきます。例えば、グルコースオキシダーゼにメディエータとしてPQQ(ピロロキノリンキノン)を用いると、キシロースやマルトースも認識するため、グルコース選択性が悪くなることが知られています。ルテニウムやオスミウムなどは優れたメディエータですが毒性が課題です。メディエータではなく過酸化水素を二種類の電極で測定してグルコース量を求める装置も開発されています。電極法はチップ型に加え、体液接触型のCGM(連続血糖値モニタリング)用に数多くの方法が提案されています。その方法は皮下間質液のグルコース濃度を連続的に測定するもので、血液中のグルコース濃度を正確に反映していませんが、日々の生活においてどのような変化が起きているかををモニターすることにより、治療の判断に役立てることを目的にしたものです。皮下間質液のグルコース濃度と血中グルコース濃度のずれやメディエータの課題を認識し開発されたCGMはすでに保険適用がなされ、糖尿病患者と治療する医師にとって重要な機器となっています。また、CGMS(連続血糖値モニタリングシステム)と組み合わせてインシュリンを自動投与する装置も開発されています。皮膚に張り付けるセンサーは、皮膚から間質液に届くように短い針が刺さるため常時不快感があることが課題ですが、低侵襲的な方法としてコンタクトレンズにセンサーを組みこんで涙液のグルコース濃度を測る方法も提案されています。


おわりに

ここで取り上げたグルコース測定法はごく一部で、記載できていない様々な方法があり、同様の原理でグルコース濃度を測定する方法でも、用いられている試薬や仕組みは異なり、いろいろな工夫が取り入れられています。また、日の目を見ない開発も数多くあり、その中で一部の製品が上市されシェアを獲得していきますが、それらも優れた新製品の登場や、新たな規制によって市場から消えていきます。グルコース測定の市場には数多くの製品があり、年間数兆円が消費されています。今後、その金額はさらに拡大していくと予想されています。今、使用されている機器では、血液や体液のグルコース濃度を測定することにおいて共通の方法が採用されています。一方、AIが得意とする膨大なデータを解析して、血中グルコース濃度との関連性を見出すことができれば、グルコース濃度を直接測るのではなく、将来的には他の因子から体内動態予測をする方法も開発されるかもしれません。その因子が何かは分かりませんが、皮膚ガスなどの体から発生するガス状の物質でモニターできれば面白いと思われます。

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