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シリーズ:有機分子を見る―環境中有機分子①空気

shiga67

はじめに

私たちの周りには数多くの分子があります。例えば、空気には窒素と酸素、二酸化炭素、水、その他、揮発性分子などが含まれていて、私たちが匂いや臭気としてとらえることができる分子があります。一方、窒素や酸素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素などは、私たちは匂いとしてとらえることができず、機器分析や簡易分析により含まれる量を測ることができます。測定対象としては、①私たちの生活や暮らしに影響するもの、②有害なもの、③研究目的で測定する必要があるものなどがあり、分子ごと、状況毎、時代背景、国、地域、民族によってその重要性も変化しています。このシリーズでは、それぞれの目的ごとに有機分子を測る理由と、その方法について簡単にまとめます。


空気中の有機分子の測定

私たちが健やかに生きて暮らすために必要な分析という定義で、身の回りにある分子を取り上げてみたいと思います。まず空気についてです。空気は地球をめぐり、消費され排出され吸収されます。その際にさまざまな分子が入り込み除去されて、一部の地域や環境を除き少なくとも私たちが長期にわたって呼吸しても安全なレベルに保たれています。それに排気ガスなどが混入してくると、炭素酸化物、窒素酸化物や硫化物などの有機ガスの含有量が上がり、呼吸器に影響を与えるレベルになります。また、硫化物は悪臭の原因物質でもあります。また、PM2.5や花粉などの浮遊性の微小物質はアレルギーや喘息などを引き起こし、呼吸器系へ影響を与えます。PM2.5や花粉は微小粒子なので、別の機会に取り上げることにしたいと思います。


窒素性酸化物の測定方法

大気汚染にかかる環境基準では、窒素性酸化物の一つである二酸化窒素は「1時間値の1日平均値が 0.04ppm から 0.06ppm までのゾーン内又は それ以下であること。」と定められています。急性毒性としては、眼刺激性や粘膜刺激性、生殖器官障害性が認められていて、慢性毒性としては動物実験の結果および疫学的調査の結果、喘息の原因の一つとして報告されています。二酸化窒素の測定には有機色素に変換して吸光光度計で測定する方法(ザルツマン法)、オゾンとの反応によって生じる化学発光を発光測定器で測定する方法があります。吸光光度計による二酸化窒素の測定原理を下図に示します。

図1 ザルツマン試薬による二酸化窒素測定反応式


吸収液に一定時間空気を通し、含まれる窒素酸化物を取り込みます。スルファニル酸がトリエタノールアミン二酸化窒素塩と反応してジアゾニウム塩を生じ、1-ナフチル-4-エチレンジアミン塩酸塩とカップリングしてアゾ色素である4-エチレンジアミン-p-スルホフェニルアゾナフタレンを生じることで、赤紫色の溶液となります。この吸光度を測定し二酸化窒素の量を求めます。一酸化窒素は酸化剤により二酸化窒素に変換し、同様に吸光度で測定します。この方法を用いた簡易キットや測定機器があり、簡易キットは発色の強さを色見本と比べて測定するもので分析原理を学ぶことができ、また全自動化により多検体分析できる装置は数多くのサンプルを取り扱う環境分析センターなどで使用されています。オゾン法は、オゾン発生装置でオゾンを発生させ測定器内で二酸化窒素と反応させて、測定器の発光検出器で発光量を測定して二酸化窒素濃度を求めます。このオゾン測定法とザルツマン試薬を用いた測定法が環境庁告示により大気中の二酸化窒素分析の手法として定められています。

窒素酸化物は、燃料に含まれる窒素や空気中の窒素が燃焼(酸化)することで生成します。冬場の灯油ストーブの使用において、密閉性の高い部屋では、二酸化窒素濃度は大気汚染の環境基準(0.04~0.06ppm 以下)の10倍以上にもなる場合がありますので、こまめな換気が必要です。


窒素性酸化物測定装置

ザルツマン法に基づいた窒素性酸化物の測定装置の概略を図2に示します。サンプル気体はフィルターを通り、ザルツマン試薬溶液を含むセルに送られます。溶液の中に導入された二酸化窒素はアゾ色素に変換されます。導入前の吸光度をゼロ(0 ppm)、一定時間における吸光度の積算値を求め、測定時間における吸光度の平均値を算出してppm値に換算します。一酸化窒素は反応しないため、液を通過させた後に硫酸酸性過マンガン酸カリウムで酸化させて、ザルツマン試薬溶液を通過させます。同様に吸光度の値からppm換算します。測定試料の導入や排気はポンプで行い、流量調整装置で一定量になるようにコントロールされます。試薬溶液の導入や排液も同様です。

図2 窒素酸化物測定装置の概略(ザルツマン法)


硫化物の測定方法

硫化物は悪臭の主要な原因物質の一つです。特に、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチルが特定悪臭物質として指定されています。これらの硫化物の特徴は以下の通りです。

・硫化水素:腐った卵のような臭いで畜産事業場、パルプ製造工場、し尿処理場などから発生します。主な特徴として、空気より重く、無色で水に溶けると弱い酸性を示します。目、皮膚、粘膜を刺激する有害な気体です。

・硫化メチル:腐ったキャベツのような臭いで、薄い場合は「磯の香り」を連想させます。

パルプ製造工場、化製場、し尿処理場などが発生源です。

・二硫化メチル:腐ったキャベツのような臭いです。パルプ製造工場、化製場、し尿処理場などが発生源となります。

これらの硫化物は、特に都市部のビル地下排水槽(ビルピット)で発生する「ビルピット臭気」の主な原因となっています。硫化水素の発生は、排水槽に貯留された水量と時間に比例し、長時間の滞留で高濃度の硫化水素が生成されます。悪臭防止のためには、定期的な清掃と設備点検が重要です。また、これらの物質には規制基準が設けられており、地域の実情に応じて敷地境界線上の濃度による規制が行われています。これら物質の測定方法ですが、はじめに悪臭成分を含む空気をポリフッ化ビニル製の袋に採取後、ホウケイ酸ガラスを担体とした捕集管を袋と接続し、捕集管を液体酸素等で冷却しながらポンプで空気を吸引し、悪臭成分を担体に吸着させます。その後、加熱脱着装置等で捕集管中の悪臭成分を脱着させ、GC-FPD(炎光光度検出器付きGC)に送り込み、分析を行います(図3)。

図3 ガス捕集管を用いた分析装置概略

 

環境有害物質対策の現状と展望

環境有害物質に関する対策は、日本において継続的に進化しています。以下に、環境有害物質対策の現状と今後の展望をまとめます。

現状として、大気汚染防止法等の規制により、ばい煙、粉じん、自動車排出ガス、特定物質、有害大気汚染物質、揮発性有機化合物(VOC)などが規制対象となっています。また、248種類の物質が「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」として指定され、そのうち23物質が「優先取組物質」としてリスト化されています。これら物質には各種基準値や指針値が設けられているものが多く、地方公共団体や事業者による大気環境モニタリングや濃度測定を実施し、有害大気汚染物質の濃度を監視しています。

次に、今後の展望として、国と地方公共団体が連携し、汚染状況の把握と科学的知見の充実に努めています。その結果の一例として、健康リスク評価の結果公表があり、国民への周知が図られています。併せて、排出抑制技術に関する情報の収集、整理、普及に取り組み、より効果的な対策が進められています。


おわりに

今回は、身の回りにある分子、特に環境有害物質に関する分子を取り上げてみましたが、化学物質対策も国際的な課題であり、今後も国際的な協力と情報共有が重要になると考えられます。環境有害物質対策は、科学技術の進歩と社会の変化に応じて常に進化し続ける必要があります。今後も、健康と環境の保護を目指し、継続的な取り組みが求められます。






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