試料の前処理法

 

​湿式灰化法

 まず動画をご覧ください。これは試料に含まれる有機物成分を硝酸で酸化分解しているときの状況で、赤褐色のガスは二酸化窒素(O=N=O)です。試料に含まれる重金属を分析するための前処理法の一つ、「湿式分解(湿式灰化)」と呼ばれる工程の動画です。

 金属分析を必要とするサンプルは金属素材や鉱物だけでなく、生体試料や植物、水、化学品、医薬品、製薬原料、化粧品、添加物など多岐に渡ります。例えば食品や飲料水、医薬品原料などに金属が含まれていると食事や治療の際に体内に取り込まれる場合があります。体内への蓄積や過剰摂取によって健康障害を引き起こす重金属類は、水道法、食品衛生法、環境基本法、日本薬局方、化粧品基準などで規制されています。これら金属を分析する際には、原子吸光光度計やICP発光、ICP-MSなどの装置が用いられます。それぞれの機器は検出感度や分析効率が異なり、目的に応じて使用する機器が異なります。各種装置を使って微量金属を分析する際の最も重要な作業は試料の前処理です。

 

 湿式灰化法では、一定量のサンプルをケルダールフラスコ*に入れ、それに濃硝酸を加えゆっくりと200℃程度で加熱します。そうすると、二酸化窒素が発生してきます(前処理は一般に地味な操作ですが、湿式灰化法はここが一番の見どころです。)。二酸化窒素はラジカルで、ニトロ化やO-ニトロソ化反応の主役でもあります。サンプルに含まれる有機化合物の炭化水素は硝酸酸化によって最終的に二酸化炭素に変換されて排出され、窒素や硫黄、リンもそれぞれ酸化化合物に変換されます。前処理で調製した分析液は、砂などの不溶物があればろ過で除く工程を加えて前処理工程は終わり。あとは、オートサンプラー付きの装置にセットし分析が始まります。

 

*窒素の分析法であるケルダール法の発明者(ヨハン・ケルダール)に由来しています。一般に分解を伴う反応を行う際に用いられるガラス器具の一つです。そのほか人名が付いているフラスコには、エルレンマイヤーフラスコ(三角フラスコ)、クライゼンフラスコなどがあります。エミール・エルレンマイヤーはケトエノール互変異性(エルレンマイヤー則)を提案した化学者としても知られています。クライゼンの名は、クライゼン縮合やクライゼン転移など、彼が発明した化学反応(Name Reaction:化学反応に発明した人の名前が冠される反応―人名反応)に付されています。