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  • shiga67

脂肪酸を測る

更新日:11月9日



はじめに

私達を含め、地球上の生物は水を主な成分としてタンパク質、核酸、糖質、脂質、電解質などから成り立っています。それらは様々な方法で分析することが可能です。タンパク質が酵素であれば、その活性を基質と呼ばれるものと反応させ、基質が酵素によって変換された物質の量を測ることにより活性値で評価することができます。酵素活性を持たないタンパク質は、その特定の構造を認識する抗体と呼ばれるたんぱく質を使って測定、検出することができます。糖質はグルコースなどの単糖やオリゴ糖、糖アルコール、また糖構造が連なった水溶性の高分子糖(多糖)や、タンパク質に糖鎖が付加したものもあります。低分子の糖は、酵素的な方法による定量分析と、高速液体クロマトグラフ(HPLC:High Performance Liquid Chromatograph)を使った分離と質量分析器(MS:Mass Spectroscope)による検出を組み合わせて定量分析することができます。多糖と呼ばれる高分子糖については、分離後、酵素分解し構成する糖を分析するなどの方法が用いられます。脂質には脂肪酸や脂肪酸エステル、膜の構成成分のリン脂質や糖脂質などが含まれます。一般的に脂肪酸類はカラムクロマトグラフや薄層クロマトグラフ(TLC:Thin Layer Chromatograph)などで分離し、脂肪酸のカルボン酸をメチル化して、ガスクロマトグラフ(GC:Gas Chromatograph)での分離とMSによる検出で定量分析を行います。今回は、脂肪酸の分析方法をご紹介します。


前処理

脂質の分析ではサンプルと分析目的によって処理方法が異なります。例えば、食用油に含まれる全脂肪酸分析であれば前処理なしで分析を行うことができます。細胞や動物組織、植物組織、菌などの分析においても同様です。サンプルに含まれる脂肪酸が少ない場合は有機溶媒抽出を行い脂質成分を分離する必要があります。遊離脂肪酸などの特定の脂質分子を測定する場合には、サンプルに含まれるそれ以外の脂質から分離する必要があります。主な前処理方法をご紹介します。


・溶媒抽出法

サンプルが水溶液の場合、一般的にはヘキサンやクロロホルムなどの有機溶媒で脂質成分を抽出します。この際、大部分の脂質成分を抽出するために有機溶媒を大量に使用し繰り返し抽出操作を行う必要があります。その後、有機溶媒を濃縮します。

・Bligh-Dyer抽出法

溶媒抽出法の一つです。ホモジナイザーと呼ばれる装置でサンプルを細かく砕き、それにクロロホルムとメタノール、水の1:2:0.8混合溶媒を加え均一な懸濁液としたのち、さらに2:2:1.8混合溶媒を加え相分離した下層の抽出液を濃縮してカラムやTLCで分離します。分離後、脂肪酸が含まれる部分を取り濃縮します。

・凍結乾燥法

水が多く含まれていて脂肪酸量が少ないサンプルの場合、まず水を除去する必要があります。その際に凍結乾燥を用いるのが一般的です。サンプルをガラス管または凍結乾燥用容器に入れ、マイナス50℃程度のアルコール浴に浸し凍結させます。容器を凍結乾燥機に取り付け高真空で減圧することで、サンプルから水が抜けていきます。残渣に有機溶媒を加え抽出し濃縮します。


分離方法

サンプルの脂肪酸分析は、遊離脂肪酸なのか、あるいは、リン脂質やコレステロールエステルなどの特定の脂質化合物なのか、サンプルに含まれる全脂肪酸かによって分離が必要かどうかが決まります。全脂肪酸であれば分離する必要はありません。遊離脂肪酸をはじめ特定の脂質分子を測定したい場合には、サンプルに含まれるそれ以外の脂質分子から分離する必要があります。脂質の分離にはクロマトグラフが用いられます。クロマトグラフにはカラムクロマトグラフとTLCがあります。それぞれの方法について説明します。


・カラムクロマトグラフ(オープンカラムクロマトグラフ)

シリカゲル微粒子をヘキサンークロロホルム混合溶媒に懸濁させ、それをガラス管に入れてシリカゲルカラムを作成します。調製したサンプルをシリカゲルカラムに載せて染み込ませ保持させます。シリカゲルカラムに加える溶媒の極性を徐々に上げていくと低極性脂質から高極性脂質が順に溶出してきますので、それらを分取します。分離できているかどうかはTLCで確認します。目的の脂質成分が入っている画分を集めて濃縮し、GC用サンプルとします。カラムクロマトグラフには常圧で溶媒をシリカゲルカラムに通すオープンカラムクロマトグラフと、少し圧力をかけてより素早く分離させるフラッシュカラムクロマトグラフがあります。

・薄層クロマトグラフ(TLC)

TLCもシリカゲル微粒子を用います。粒子径はカラムクロマトグラフに比べるとより細かくなっています。分取用のTLCは20 x 20 cm程度のサイズのガラス板にペースト状のシリカゲルを1 mm程度の厚さになるように広げて作成しますが、市販品も数多く販売されています。サンプルはガラス板の端から約2 cm程度のところに線状にスポットします。用いる溶媒は一種類で、深さ1 cmほどの溶媒に浸したガラス板のシリカゲル層を溶媒が徐々に上昇していくとサンプルに含まれる脂質がその性質(分子の極性)によって分離されます(展開工程)。展開終了後、TLCの一部を切り出し適当な発色剤を使って染色し、目的の脂質分子の場所を確認します。残りのTLCで目的の脂質分子がある場所のシリカゲルを掻き取り混合溶媒で目的成分を抽出します。溶媒を除きサンプルとします。


ガスクロマトグラフ分析用サンプル調製

GCで分析するためには、脂肪酸サンプルを揮発性にする必要があります。脂肪酸は長鎖アルキル鎖の末端にカルボキシル基が付加しているため沸点が高く、例えばオレイン酸を加熱していくと360℃で分解します。そのためカルボキシル基をメチルエステル化することで分解しない温度域で気化させることができます。GC用のサンプルの誘導体化法にはいくつかあり、メチルエステル化は最も利用されている方法です。メチル化は酸触媒として硫酸やBF3を、塩基性触媒としてナトリウムメトキシドなどを含むメタノールにサンプルを混合し一定温度、一定時間インキュベートすることで進行します。メチルエステルは高脂溶性のためヘキサンで抽出しGC用サンプルとします。


定量分析と定性分析

サンプルにどの脂肪酸がどれくらい含まれるかを知るためには定量分析を実施します。脂肪酸のうちどの脂肪酸がどれくらいの割合で含まれるかを知るためには定性分析(組成分析)を行います。定量分析を行えば組成も分かりますが、各脂肪酸毎の検量線作成が必要となり、定性分析よりも操作と解析に時間がかかります。定量分析ではサンプル重量あるいは容量当たりの数値としてmg/L、mg/kg(あるいはµg/g)といった表記になり、定性分析では重量%の表記となります。


おわりに

脂肪酸分析を行うサンプルは多岐に渡り分析する目的も異なりますので、最適な前処理方法の選択が重要となります。また、入手できるサンプル量が少なく含有量の少ない脂質分子を定量する必要がある場合ではGC-MS分析でも感度が不足することがありますので、すべてのサンプルがこの方法で分析できるわけではありません。また、ブタン酸などの短鎖脂肪酸(有機酸)を分析するには別の方法を用いる必要があります。食品中の脂肪酸分析から細胞レベルの脂肪酸分析まで幅広く、最近では細胞内の脂肪酸動態を見たいとの要望も出てきています。そうなると我々が行っている脂肪酸分析とは異なる分析法が必要になってきます。一つは蛍光プローブを使った方法になるかと思いますので、そのような分子プローブの開発が期待されます。





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