分析の機器シリーズーHPLC(高速液体クロマトグラフ)

はじめに

科学分析は一般的に装置や様々な試薬(化学薬品)を使って、試料中の対象成分の濃度や量を測定する手段の一つです。測定する物質の濃度によって用いる方法や装置は異なります。また、定性分析なのか定量分析なのかによっても違いがあります。存在の有無を知る分析を定性分析、それがどれくらいの量あるのかを知るのが定量分析ということになりますが、手法には検出できる限界や定量できる下限(分析濃度:定量下限>>検出限界)がありますので、全く存在しないことを分析によって証明するのは今の技術ではほとんど不可能です。従って、分析結果として「検出限界以下」や「不検出」といった言葉で表現されます。それらは、定められた方法で分析した場合に、その方法の検出限界よりも低いことを示しますが、存在しないという意味ではありません。測定する物質によってその成分の影響度合いから求められる「不検出」のレベルが定められている状況もあります。

 

分析ではそれぞれの被検物質やサンプル、求められる検出レベルによって特定の機器が使用されます。例えば、健康診断などで血液中の糖(グルコース)を測定する場合、特異的酵素と特定の試薬で処理して色や電気信号に変換します。その色の濃さや電気信号の強さは糖の量と比例関係にありますので、その度合いを測ることにより血液中の糖の濃度を知ることができます。分析には様々な方法がありますが、どの方法がいいかは求められる条件次第ということになります。例えば、その値次第で直ちに何らかの処置が必要な場合は、迅速に結果が得られる方法である必要があります。また、直ちに対応する必要はないが、定期的に数多くのサンプル測定しなければならない場合は、測定時間の短縮化よりは、測定コストの低減や検体処理数の増加、自動化が求められます。また、採取できるサンプルの量が少ない場合は、微量分析に対応した装置の開発や、測定感度の向上が求められます。加えて、サンプルの前処理にも工夫が必要です。今回のシリーズでは分析で用いられる機器について紹介してまいります。初回は高速液体クロマトグラフです。

 

高速液体クロマトグラフ(HPLC:High Performance Liquid Chromatograph)

 

高速液体クロマトグラフは、多くの分析現場には欠かせない装置で主に定量目的で使用されます。カラムと呼ばれる微細な粒子が充填された管を溶媒と共にサンプルを流すことにより、流れていく過程でサンプル中の定量したい成分が分離され、その濃度を検出器により測定するものです。装置の構成概略を上の図に示します。溶媒を流すためのポンプにサンプルをカラムに通すためのインジェクターバルブ、検出器が基本的な構成になります。加えて、ポンプを並列で使用し脈流を抑え流速を一定にする仕組み、複数の溶媒を混合するためのポートや、溶媒に含まれる気体を除去するための脱気システム、カラムを一定温度に保つための恒温槽(カラムオーブン)、多くの検体を終夜で分析するためのオートサンプラー、HPLCをコントロールしデータを処理するためのシステムなどが必要となります。

 

一般的なカラムに充填される粒子(充填剤)のサイズは直径約5 µm程度、カラムの長さは約10~25 cmで、最も多く使用される粒子はODSシリカゲルと呼ばれるものです。シリカゲルの表面にオクタデシルシリル(Octadecylsilyl)基が付加されています。多くの種類のサンプルの分離が可能であることと、繰り返し使用できることに加え、比較的安価であることが選択される理由です。カラムは多くのメーカーから販売されており、それぞれ特徴がありますが、データの再現性や過去のデータとの相関性から同一のカラムを使用するケースがほとんどです。分析する試料によって専用のカラムもあります。多環芳香族分離用、キラル分子分離用、陰イオン界面活性剤分離用、糖分離用、アミノ酸分離用、オリゴヌクレオチド分離用、重合高分子分離用など、それぞれの目的に応じて多くのカラムが開発されています。カラムによって分子が分離できるのは、溶媒の流れで運ばれる分子の充填剤の表面分子との相互作用の程度が異なるためです。相互作用が弱いと早く流れ強いほど遅く流れますので、相互作用の弱い順にカラムから出てくることになります(上図 充填剤による分子の分離)。分子によっては、充填剤の表面分子とほとんど相互作用しない、あるいは相互作用が強すぎて検出されるまでの分析時間がかかりすぎる場合があり、いずれのケースでも溶媒組成を検討することが重要です。分離をよくするために溶媒の組成を連続的に変化させることも一般的に行われます。

 

検出器については種類が多く、紫外可視吸収スペクトルを全波長で測定するタイプや特定の波長を設定して測定する吸収スペクトル検出、また高感度検出が可能な蛍光検出、全波長域で吸収がない場合に用いられる屈折を利用した示差屈折(RI:Refractive Index)検出、質量分析で分子を検出する質量分析器(MS:Mass Spectrometer)などが一般的です。また、荷電粒子検出を用いた検出器(CAD:Charged Aerosol Detector)もあります。CADは溶媒を除去しサンプルを微粒子としたのち、帯電させて検出するものです。ただ、それぞれに一長一短があり、サンプルに応じて使い分けが必要です。

 

また、HPLCにおけるサンプルの検出感度を向上させたり、分離を良好にしたりするために誘導体化が行われることがあります。誘導体化は検出感度向上を目的とした蛍光分子の付加や、妨害物の影響を抑えるために、特定の官能基を対象として吸収を持つ色素を付加させるケースが多いようです。誘導体化は分離する前に行われる場合と、分離した後で行われる場合があり、それぞれプレカラム法、ポストカラム法と呼ばれます。ポストカラム法は誘導体化する試薬の使用量が多いという欠点があります。アミノ酸検出には一般的にポストカラム法で安価なo-フタルアルデヒドなどの試薬が用いられます。プレカラム法は試薬の使用量は抑えられますが、サンプルの状態によって誘導体化効率に影響する場合がありますので、条件を吟味したうえで分析することが重要です。